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イングランド戦考察。黒星の先に見えた一筋の光明 by 藤江直人

■サッカー国際親善試合
イングランド代表 2‐1(前半0‐1) 日本代表
[5月30日午後9時15分(日本時間)キックオフ@UPCアリーナ(オーストリア)]
大きな収穫があったことを考えれば、価値のある黒星となるはずだ。
試合直後のフラッシュインタビュー。FIFAランク8位のイングランドを試合途中から本気にさせ、残り20分を切ってからの連続オウンゴールで逆転負けを喫した90分間に対する満足度を問われた日本代表の岡田武史監督は、こんな言葉を残している。
「初戦に向けての道筋はある程度見えたので、そこそこかな」
指揮官の言う筋道とは、最終ラインの前に守備のできるMFを配置することに他ならない。
いわゆる「アンカー」の起用。イングランド戦では阿部勇樹が及第点のプレーを演じた。軽い肉離れを起こした左太ももの内転筋の状態が上がってくれば、この「論」でも起用を指摘した稲本潤一も控えている。今野泰幸も右サイドバックよりはこのポジションの方が適任だ。
昨年11月の南アフリカ戦で一度は試しながら、前半の45分間だけで「しっくりこない」とあきらめていた新システムの導入。カメルーンとの1次リーグ初戦を約2週間後に控えた岡田監督がようやく現実路線に舵を切ったとすれば、それが最大の収穫となるだろう。
ボールポゼッションで相手を大きく上回り、日本が優位に立つ試合展開は、残念ながらW杯では訪れない。日本国内で行われた試合ではないので公式には発表されていないが、イングランド戦でも日本のボールポゼッションは50パーセントを割っていたはずだ。
こうした状況では耐えて、耐えて、耐え抜いて、カウンターかセットプレーからの一発に活路を見出すしかない。日本が得意とするのは特に後者。完全なる弱者の戦い方となるが、アジアではともかく、W杯の舞台では日本は完全なる弱者となるのだから致し方ない。
しかしながら、こういう戦い方をしても「流れの中からのゴールがない」と批判される。そうした見方に対して、DF中澤佑二はこう訴えたことがあった。
「泥臭くても1対0で勝つのが強いチーム。そうした流れを代表にもつなげたいけど、代表だと意外と周りが厳しくて、セットプレー一発だけだとブーイングが起きかねない。1対0の勝利というのは非常に大切なこと。勝つためのサッカーとは何か、ということを一人ひとりが判断しないといけない。他の国ならたとえ1対0でも、内容が悪くても、勝ちは勝ちですから」
イングランド戦はまさに中澤が望んでいた通りの展開となった。
カウンターからFW大久保嘉人が最終ラインの裏に抜け出し、両チームを通じてこの試合初のCKを誘発する。キッカーはMF遠藤保仁。右から放たれたグラウンダーのボールに阿部がダミーで走り、マークが甘くなったDF田中マルクス闘莉王が右足を一閃する。
キーパーと右ポストをブロックしていたDFのわずかな間をすり抜けて、強烈なシュートがネットを揺らした。開始7分。相手のエンジンがかかる前に奪った電光石火の先制点だった。
過去3度のW杯で日本がまだセットプレーからのゴールをあげていない現実を指摘しながら、中澤はこうも訴えている。
「とにかくセットプレーで点を取りたい。日本がセットプレーで点を取れるようになれば、他の国に与える脅威が増すと思うので。ニアで引っ掛けたり、ショートを使ったり、いろいろとやっていければ。相手が大きいからセットプレーは無理と考えるのではなく、相手がどうであれ、セットプレーで1点取って勝つ、という極端な気持ちがあっても悪くないと思う」
失点で目覚めたかのように動きを鋭くしたFWルーニーやMFランパード、後半から投入されたMFジェラードらのビッグネームを相手に、日本は文字通りゴールを死守した。
先発に抜擢されたGK川島永嗣がファインセーブを連発すれば、最終ラインの4人と阿部を底に置いた遠藤と長谷部誠の逆三角形型の3人のボランチ、左サイドではFWの大久保までが体を張り続けた。イングランドのカペッロ監督は「日本は9人で守っていた」と試合に揶揄したそうだが、まさに嘘偽りのない事実。名将を苛立たせたとして受け止めるべきだろう。
岡田監督もW杯本番を想定したからこそ、交代枠を半分の3つしか使わなかったのだろう。3つとは、もちろん本番における上限。だからこそ、その交代が決して試合展開に対して効果的ではなかったことが悔やまれる。
FW岡崎慎司に代えて森本貴幸を投入した後半19分の最初の交代はともかく、26分の大久保と松井大輔の交代は、その直後に日本の左サイドをフリーで突破したレノンのクロスが闘莉王のオウンゴールにつながったことを考えれば「?」をつけざるを得ない。
決して松井という選手個人に対して異を唱えるのはない。それまでの日本は、左サイドはDF長友佑都と大久保、右サイドは今野とFW本田圭佑とともに2人がかりでイングランドのサイド攻撃に対する防波堤を築いていた。
果たして、松井に対して岡田監督からどんな指示が出ていたのか。攻撃に特化させれば背後のスペースが空き、長友が数的不利を強いられる。守備面で長友と松井との間に生じた微妙な連携のズレをイングランドは瞬時に見抜いてきたわけだ。
岡田監督はハーフタイムで「1対0で勝って何の意味がある」と選手たちに2点目を奪うことを求めたという。松井に対してもしかり、だろう。
確かに攻撃は最大の防御であり、親善試合ならば結果より内容が求められる。しかし、セルビア、韓国と国内で2連敗を喫した選手たちは自信を失いかけていた。理想を追い求めるのもいいが、残り時間が20分を切っていたこと、後半10分に川島がランパードのPKを右腕一本でセーブしていたことを考えれば、貪欲に勝利にこだわるさい配に切り替えるべきだった。
つまり、1対0で逃げ切り、親善試合とはいえイングランド相手に金星を挙げることにこそ最大の意味があったのではないか。
スイスのザースフェーで積んできた3日間の高地トレーニングの影響もあって、残り20分を切った段階で日本の選手の足は明らかに止まりかけていた。ベンチのサブメンバーを見渡せば、大久保を下げることで左サイドの守備のリズムを自ら崩してしまうのではなく、右サイドにおける守備の貢献度が極端に乏しかった本田にまず見切りをつけるべきだった。
豊富な運動量を買われて代表に滑り込んだFW矢野貴章はいったい何のためにいるのか。勝ち越しゴールとなった後半38分の中澤のオウンゴールが、日本の右サイドからのA・コールのクロスに誘発されたことを考えればなおさらだ。
結局、岡田監督は本田を最後までプレーさせた。彼を攻撃の軸としたいのならば、2枚目のカードで精彩を欠き始めた遠藤に代えて矢野を投入。遠藤のいた中央に本田をシフトさせ、フレッシュな矢野の運動量で右サイドにフタをするさい配がもっとも有効的だったのではないか。
ここまで机上の理論であれこれ言ってきたが、日本代表の試合で久しく忘れかけていた「必死さ」や「アグレッシブさ」がひしひしと伝わってきた90分間でもあった。
これで悪い流れを断ち切ったかと言えば「イエス」と即答できない点がもどかしいが、イングランド相手の善戦を受けて指揮官が本大会でも「4‐1‐2‐3」とも「4‐1‐4‐1」とも言える路線を継続するのであれば、日本はようやくスタートラインに立ったことになる。
この「論」で緊急手術を提言したのも、布陣こそ異なるが、その根底には目の前の現実を認めろというメッセージを込めたつもりだ。だからこそ、今後は本番用の新システムのもとで使える選手とそうでない選手の見極めが必要になってくる。
まずは前線の「3」の両サイド。守備でも大きな比重を占めるポジションである以上、豊富な運動量と献身さが求められる。そうなると、たとえ左足首の故障が癒えたとしても、守備を不得手とする中村俊輔は使えない。
森本を中央に、両サイドを岡崎と大久保でスタートし、疲れたら松井、矢野、玉田圭司らと代わるのが現状ではベストだろう。A代表における試合出場が圧倒的に不足している以上、森本にぎこちなさが目立つのは仕方ない。残り2週間で可能な限りの経験を体に刻むしかない。
そして、あくまで本田を攻撃の軸に据えたいのであれば、アンカー役の阿部の前に並ぶ2人のどちらかと代えるしかない。現状では遠藤と代わることになるはずだが、その場合はCKを含めたセットプレーのキッカーをすべて本田が務めることになる。
「ここからは攻撃の推進力を出せるようにしないといけない」
岡田監督は今後の課題をこう挙げていたが、そのためには本田の仕事を明確にしないといけない。少なくともイングランド戦で与えられたポジションは適任ではない。
右からの攻め上がりが極端に少なかったことを考えれば、本職ではない今野の起用も再考すべきだ。前方に運動量の多い選手がいれば、従来通り内田篤人でもいいのではないか。いまになって守備力を問題視するのであれば、なぜ岡田監督は内田を選出したのか。
W杯のような大舞台を戦うにはラッキーボーイも必要になる。PKを与えた本田の不用意なプレーを帳消しにした川島は、その典型的な存在だ。長く日本のゴールマウスを守ってきた楢崎正剛には気の毒だが、ここは川島のオン・ザ・ウエーブぶりに賭けてみたくなる。
こうなると、07年12月の就任以来、岡田監督が追い求めてきた理想はすべて無に帰すことになる。残念ながらこれが現実であり、奥歯にモノがはさまったような言い回しで中澤が求めていた、いまの日本代表にもっとも即した戦い方でもある。
目を覆うような惨敗を喫したドイツ大会から4年。イビチャ・オシム前監督時代に一気に高まった期待を考えれば空しさを覚えるかもしれないが、それでも先の韓国戦のような覇気すら感じられない惨敗をW杯のヒノキ舞台で見せられるよりはましだ。
その意味では、黒星の先にわずかながら光明と呼べるべきものが見えてきた。
2010年5月31日 05:07|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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