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オランダと日本/背番号10の意識に象徴される明と暗 by 藤江直人

■W杯南アフリカ大会・1次リーグE組
オランダ代表[勝ち点6] 1‐0(前半0‐0) 日本代表[勝ち点3]
[6月19日午後8時半(日本時間)キックオフ@ダーバン競技場/観衆6万2,010人]
個人を攻撃するつもりはないが、ここはあえて言わせてもらう。
中村俊輔は何のためにピッチに投入され、実際に何をしようとしたのか。
シュートを打たない。相手に仕掛けようともしない。後方もしくはヨコへのパスが目立つ。日本全体が前がかりになったところでボールを奪われ、あわや失点のピンチを招く。
岡田武史監督は試合後、俊輔投入の意図を「松井がへばっていたので攻撃の起点になってほしかった」と説明したが、一縷の望みを託すフリーキックの場面も与えてくれない。大会初出場の背番号10がチームに及ぼした効果はほとんどゼロ。大きな疑問の残るさい配だった。
MF松井大輔に代わって俊輔がピッチに立ったのは、日本の1点ビハインドで迎えた後半19分。日本が切った最初の交代のカードだったが、そこには「より積極的に点を取りにいく」という岡田監督の明確なメッセージが込められていたはずだ。
迎えた36分。ペナルティーエリアの右付近でボールをキープする俊輔が、中央へ切れ込んで左足でシュートを放てば面白い。こう思った直後に選択されたのは、背後を駆け上がってきたDF長友佑都へのスルーパス。ゴールへの期待は一気に萎み、実際に長友に合わずにボールがゴールラインを割ると、今度はベンチの選手たちがいっせいに天を仰いだ。
なぜシュートという選択肢がなかったのか。どうして美しく崩そうとするのか。
後半8分の日本の失点シーンを思い起こしてほしい。DF田中マルクス闘莉王のクリアが小さくなったところをFWファンペルシーが拾い、チェックを受けながらも後方へ流す。
決して華麗なパスワークではなかったし、パス自体も大きくバウンドしていたが、走り込んできたMFスナイデルには絶対にシュートに結びつけるという気迫がみなぎっていた。
ペナルティーエリアのやや外側から放たれた強烈な弾道はセーブしようとしたGK川島永嗣の眼前でコースを微妙に変化させ、両腕を弾くようにして日本ゴールに吸い込まれた。
今大会の公式使用球であるアディダス社製の『ジャブラニ』はブレ球など予測不能の弾道を生み出しやすいとされ、実際に参加各国の守護神や守備陣を翻弄している。
つまり、シュートを枠の中に飛ばせば何かが起こる。もはや疑いようのない事実だからこそ、相手の最終ラインの裏へのスルーパスという「ひと手間」をかける必要はどこにもなかった。スルーパスそのものが成功するかどうか未知数なだけに、なおさら俊輔の選択は残念だった。
「シュートが自分が思った方向に飛んでくれればもっとよかったんだけど」
スナイデルの言葉を聞けば、同じ背番号10を背負った2人の考え方の違いが鮮明になる。
実際、俊輔が投入された直後の後半20分にFW大久保嘉人が右足を振り抜いて以降、日本は攻め込みながらもシュートを放てない時間帯が続いていた。ボールを持たされていると表現した方がいいかもしれない。だからこそ、相手を脅かすような意外性が必要だった。
リードしたオランダの攻撃はカウンター中心。ターゲットは守備を不得手とする俊輔。そんな術中にも簡単にはまってしまう。33分、そして43分と2度もボールを簡単に奪われ、2度目は途中出場のMFアフェライにあわやのシュートを放たれた。
負けるにしても最少失点が求められた一戦。GK川島のファインセーブと闘莉王、中澤佑二のカバーがなければ、得失点差において大きなハンデを背負うところだった。
得点シーンと終了間際の2度のカウンターを除けば、日本はオランダにほとんど決定機を作らせなかった。ボールポゼッションでは圧倒されたが、組織的な守備で粘り強く対抗した。
時にはワントップの本田圭佑を除く9人のフィールドプレーヤーが自陣にとどまり、強固なブロックを作った。消極的と言われようが、退屈と批判されようが、これがいまの日本にできる精いっぱいの戦い方。理想は捨て去り、現実に目を向けた中で活路を見出すしかない。
実際、日本の守備がカメルーン戦よりも組織的になっていたことは、オランダが何度も後方へのパスを選択したことでも分かる。アンカー役の阿部勇樹の存在も効いていた。
日本の敗戦から約5時間後に開始されたE組のもうひと試合は、デンマークがカメルーンに逆転勝ちした。この結果、オランダの決勝トーナメント進出とカメルーンの1次リーグ敗退が決まり、残されたひとつのイスを日本とデンマークが争う図式になった。
両国は1勝1敗の勝ち点3で並び、得失点差でわずかに「1」だけ日本がリードしている。つまり、最終戦は引き分けでも日本の決勝トーナメント進出が決まる。
後半40分にも決定的なピンチを防いだ川島の存在があらためてクローズアップされてくるとともに、対デンマークの戦い方もはっきりした。
先発はカメルーン戦、オランダ戦と変わらない11人。オランダ戦ではメンバーの一部を入れ替えるかと思われたが、同じ顔ぶれで戦った分だけピッチ上における考え方がより統一される。敗戦の中で得た収穫と言ってもいいだろう。
だからこそ、デンマーク戦までの中4日で最優先されるのは、攻守に過度の負担を強いられている松井、大久保、ゲームキャプテンの長谷部誠の3人のコンディションの回復だ。
1対1で仕掛けられる松井、シュートを打てば何かが起こると本能的に理解している大久保の2人は、デンマークにも厄介な存在に映ったはずだ。
後半32分から投入された玉田圭司と岡崎慎司の両FWも、空回り気味だった前者はともかく、後者からは何がなんでもシュートを打つという目的意識がしっかりと伝わってきた。
後半45分。右サイドから長友が上げたクロスを攻め上がっていた闘莉王がヘディングでゴール前に流し、岡崎慎司が走り込んで生まれた最後のビッグチャンス。岡崎の左足から放たれた一撃は無情にもバーの上を超えたが、この時、ゴール前にフリーで詰めていた俊輔は両手を広げながら「どうしてパスを出さない」というゼスチャーを見せている。
このシーンに彼の「考え方」が凝縮されているような気がしてならない。
岡崎は右側から相手DFに厳しく寄せられていた。体勢を大きく崩しながら、そのマーカー越しに俊輔へパスを出すことはほぼ不可能。この場面で俊輔に求められるのは、岡崎のシュートが相手GKかゴールポスト、バーに弾かれた場合に備えることのはずだ。
3月3日のバーレーン戦後に本田がこんなことを言っていたことを思い出す。
「俊輔さんからのパスがまだまだ少ない。オレのパスの引き出し方にも問題があるし、まだまだ改善の余地がある。俊輔さんは足元ではなく、裏に飛び出したオカ(岡崎)のところとか、相手が嫌がるところにパスを出したがっているので」
やんわりとした口調ながら、シュートよりもパス、泥臭さよりも美しさを志向する俊輔のスタイルを一刀両断していたが、W杯本番の大事な一戦で計らずもそれが露呈してしまった。
本田自身のプレーも及第点を与えられるものではなかったし、試合の流れから消える時間帯も多かった。試合後に「オランダの脅威にならなかった」と自らを責めたのもうなずける。
それでも、不慣れなFW、それもワントップで起用される中で必死に戦おうとする意思は伝わってくる。もちろん俊輔も戦う姿勢はあったはずだが、いまのチームの戦い方、試合状況に即していたのかどうか。途中出場の選手に求められる役割を理解していたのかどうか。
試合後のインタビューで中澤はデンマークとの大一番への決意をこう語った。
「決して悪いことばかりじゃないので、下を向く必要はない。修正とかそういうことではなく、とにかく次は勝たないといけない」
他会場の経過や得失点差うぬんぬんを考えることなく、「目の前の相手から勝ち点をあげる」という明確な目標を持って臨める24日のデンマーク戦のメリットは大きい。
そして、もしもリードを許し、ゴールを奪うための選手を交代でピッチに送り出す状況になっても、独りよがりの美学を貫こうとする俊輔が指名されることはもはやありえない。
2010年6月20日 10:45|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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