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いざ、パラグアイ戦!MF遠藤保仁の4年越しの決意  by 藤江直人

いざ、パラグアイ戦!MF遠藤保仁の4年越しの決意  by  藤江直人

 運命のパラグアイ戦のキックオフを約7時間後に控えて、MF遠藤保仁が残した言葉が約1年の時空を超えて鮮やかによみがえってくる。
 昨年6月に発行した『論スポ』第4号で、W杯南アフリカ大会出場を決めたばかりの日本代表チームを特集した。目玉企画のひとつとして遠藤とサッカーフリークで知られる小説家の馳星周氏の対談を行ったが、その中で遠藤が「一番大事なこと」として力を込めて語っていたことと、いま現在の日本代表が見事なまでにシンクロしているのだ。その部分を抜粋してみる。


  1998年のフランス大会までは日本代表にとってW杯に出ることが一番の目標でしたけど、いまは1次リーグを突破することに変わっていると思うのね。つまり、南アでベスト16に進むためには、いまの日本代表には何が求められると思っていますか。


遠藤 フィジカルや決定力のことをよく言われますし、確かにその通りですけど、急によくなったり悪くなったりは......悪くなることはあるかもしれませんけど、急によくはならない。よくするための努力はしなきゃいけないんですけど、例えばチーム全員で輪になって、選手個々の能力が高ければ高いほどその輪が大きくなっていくとします。当然、それはブラジルやアルゼンチンで、日本はどうしても小さな輪になるんですけど、小さいなりに絶対に手を離さない、どんなに強い相手でも割れないし、破けない。そんな輪を作ることが一番大事だと思うんです。


  面白い例え話をするね。


遠藤 個々の能力が高く、結果として大きな輪になっても、どこかにスキがあればそこから潰され、輪がパンッと崩れてしまう可能性がある。逆にどんなに大きな輪の前でも崩れなければ十分にチャンスがある、と僕は思っているんですけどね。そういう頑丈な輪を持ったチームになることは決して不可能なことではないし、僕個人としてはそういうチームにしていきたい。


  それって、ドイツW杯での反省みたいなものもあるのでしょうか。


遠藤 いま思えば、あのチームはどこか欠けていたんじゃないかなと。


  オレたち素人がピッチの外から見ていても、あのチームは何かが欠けていた。


遠藤 W杯という特別な舞台になればなるほど、チーム力というものが間違いなく大事になってくる。僕もW杯は初めてだったし、数多くいたW杯経験者がどのようにしてチームを持っていくのか、ということを見ていたんですけど。僕自身は普段通りにやればいい、と思っていた部分があり、いま振り返ればその通りだったんですけど、そのときは普段通りにできていなかった。ドイツで経験したことを踏まえて、いまの自分の中では小さくてもいいから強い輪を作りたい。


 小さくてもいいから強い輪。遠藤が求めて続けてきた団結力は、試合前の国歌吹奏時の光景に凝縮されていると言ってもいいのかもしれない。
 ピッチ上の11人だけでなく、ベンチに立つ岡田武史監督以下のコーチ陣、サブメンバー、サポートメンバーの全員が肩を組んで『君が代』を口ずさんでいる。
 いまやどこの国でも肩を組むし、決して新しいことでもないが、日本代表においてはカメルーンとの1次初戦を迎えて初めて見られたものだった。


 それも、岡田監督やコーチ陣からの押し付けでなく、試合直前になって選手が自発的に言い出したと聞いた時から、日本チームの中に芽生えた変化を感じずにはいられなかった。
 5月下旬に行われた選手だけのミーティングで「オレたち下手くそなんだから泥臭く戦おう」と訴えたDF田中マルクス闘莉王が提案し、ゲームキャプテンのMF長谷部誠が「ベンチも一緒に肩を組んでくれますか」と呼びかけたという。
 この時、遠藤は万感の思いを胸に抱いていたのではないか。


 団結力やチームワークと言われても、もちろん目に見えるものでもないし、試合結果との因果関係が理論的に証明されることもありえない。
 しかし、遠藤が1年前に「個々の能力が高く、結果として大きな輪になっても、どこかにスキがあればそこから潰され、輪がパンッと崩れてしまう可能性がある」と言及した典型的な例が空中分解した末に1次リーグで惨敗したフランス代表となるならば、W杯に代表されるような大舞台を戦い抜くには欠かせない要素であることが分かる。
 

 しかも、世界における自らの存在を「弱者」と認めた上で、泥臭く、現実的に戦うことで活路を見出した日本の武器となる「小さいながらも強い輪」は、W杯での実戦を重ねるたびに手にした自信を触媒として、輪の直径自体を少しずつながら広げつつある。
 カメルーン戦では得点シーン以外はほとんど守備に忙殺されていた攻撃陣が、デンマーク戦では見ている側も驚くような創造力を何度も発揮。最後まで貪欲にゴールを求めた。
 馳星周氏との対談で遠藤はこうも語っている。


遠藤 代表チームで言えば、いまのスペインはホントに理想のサッカーをしている。


  華麗にパスをつないで、日本人ってああいうサッカーが大好きだよね。


遠藤 逆にイタリアみたいなサッカーをして勝っても、まず何か文句を言われると思いますし。というか、あれを日本人にやれと言われてもまず不可能でしょう。


  文化の問題だからね。守り切ろうとしても、どこかで切れちゃう。イタリア人にはそれができるんだよね。


遠藤 魅力はないけど、勝ちゃあいいみたいな感じで。できれば、スペインみたいに魅せた上で勝ちたいじゃないですか。日本もゆくゆくはああいうサッカーがしたいなと。


 ワントップに入った本田圭佑が叩き込んだ虎の子の1点をなりふり構わず死守したカメルーン戦は、確かに海外のメディアから「今大会で最も退屈な試合」と酷評された。日本国内でも少なからず将来に対して悲観的な声があがった。
 それでも、もちろん往年のイタリアのようにスマートで洗練されてはいないが、泥臭く、体を張って守り切った末にすでに2つの勝利をもぎ取った。もちろんスペインの華麗さの足元にも及ばないが、それでもがむしゃらな運動量をベースにしたパスワークで幾度となく相手を翻弄した。


 わずか1年前に遠藤が「不可能」とし、「将来の理想」とした究極の攻守が、レベルそのものはともかくとして、W杯の大舞台で実践されつつある。
 迷走を続けたあげく、W杯直前にそれまでのすべてのコンセプトを覆した岡田監督の手腕や体制に対する検証はもちろん欠かせない。それでも、いまは「もう負けたくない」というどん底の状態で選手たちが手にした「輪」という武器が、どこまで可能性を広げるのかを見届けたい。
 願わくば今夜、史上初のベスト8進出という未知の扉を開けることも。

2010年6月29日 15:34|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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