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ブラジル敗退。「自由奔放」を封印した規律の破綻 by 藤江直人

■W杯南アフリカ大会・準々決勝
オランダ代表 2‐1(前半0‐1) ブラジル代表
[7月2日午後11時(日本時間)キックオフ@ネルソン・マンデラ・ベイ競技場]
ブラジルは随所に高度な個人技を魅せた。それ以上に、まじめで献身的だった。そして、悲しいほどに脆かった。史上最多を更新する6度目の優勝の夢ははかなくも散った。
今大会のブラジル代表は、堅守速攻を軸に、何よりも規律を重視する厳格なドゥンガ監督の性格や考え方がそのまま反映されたチームだった。
史上で最もハイレベルで攻守が安定しているセレソン。その安定さがブラジル国民の目に「つまらない」と映ろうが、指揮官は決してぶれることなく堅実なサッカーを貫いてきた。
国民の間で代表復帰への待望論が高かったロナウジーニョを迷うことなく外し、ブラジルで再出発を期した怪物FWアドリアーノには目もくれなかった。
いずれもピッチの外で羽目を外す私生活が伝えられた面々だ。どんなに魅惑的なプレーをしようが、ドゥンガ監督はチームの規律を乱すおそれのある危険要素は徹底的に排除した。
それは、ロナウジーニョやロナウドを中心とする攻撃陣の感性にすべてを任せた挙げ句、準々決勝でフランスに零封負けを喫した前回ドイツ大会へのアンチテーゼでもあったはずだ。
発売中の『論スポ』で、サッカー評論家の風間八宏氏の監修のもとで「出場32カ国パーフェクトガイド」を作成した。
前回ドイツ大会は酷暑の中、運動量を可能な限り抑制し、中盤を厚くしてカウンターを狙う守備的なサッカーが主流を占めた。正直、物足りなさが残った。
今回のW杯は真冬にさしかかる南半球での開催。ヨーロッパとの時差もない。南アフリカ大会で見られるサッカーのトレンドについて、風間氏は期待を込めてこう語っていた。
歴史的に見ても、クライフ、ベッケンバウアー、マラドーナらが作った「個人のサッカー」から「戦術優先のサッカー」に変わったが、再び個人の戦術の高いサッカーが勝つ流れに揺れ戻っている。当たり前のことを、手でボールを扱うほど正確に持続することができる選手が目立ってきた。ある意味で技術比べの大会になる予感もする。ピッチ状態さえよければ、技術が高く、ボールをもてるチームが勝つのではないか。個人戦術を主体にした第二期の面白い時代がやってくるのかもしれない。
新しいトレンドを担う有力候補の一角だった王国ブラジルは、結局、最後までドゥンガ監督が掲げる「規律」という呪縛から解放されなかった。
高度な個人戦術を持ち合わせているはずのMFカカは最後までコマの一人に徹していた。ほぼ完璧な攻守でオランダを圧倒した前半から一転、後半8分にオウンゴールで同点とされると、ピッチ上の統制は一気に失われる。勢いに乗るオランダに23分に逆転を許し、その5分後にMFフェリペ・ネロが一発退場する流れは文字通りの自滅。輝かないカカも、そしてキャプテンを務めるベテランDFルシオも、チームを立て直す術を持ち合わせていなかった。
これも、ベンチの指揮官の「個」が強烈すぎた代償なのか。待ってました、とばかりにブラジル国内ではバッシングの嵐が吹き荒れるだろう。ファンタジーを封印したのが敗因だ、と。
「勝負の世界では、勝者はすべてを手にし、敗者はすべての責任を負わなければならない」
そのドゥンガ監督は退任の意向を表明するとともに、指導者の経験がないまま代表監督に就任し、さい配をふるってきた4年間に対して「チームへの献身と威厳を欠かさなかったメンバーとともに仕事をしてきたことに誇りを感じている」と胸を張ることを忘れなかった。
もっとも、1998年のフランス大会以来、通算4度目となるベスト4進出を決めたオランダに対する評価も、母国では決して芳しいものではないという。
代名詞ともいえる4‐3‐3の布陣のもと、両サイドをワイドに使った魅力的な攻撃サッカーを仕掛けるのがオランダの伝統。美しく、かつ華麗に攻める気持ちを貫けば、頂点をつかむことなく敗退しても国民が納得する気質があったが、今大会のオレンジ軍団を率いるファン・マルバイク監督は堅実な守備からのカウンターを攻撃の軸に据えている。
準々決勝でも、所属するリヨンではMFを務めることの多いブラジルの左サイドバック、ミシェウ・バストスの背後を徹底的に攻め、オウンゴールにつながるフリーキックをゲット。結局、バストスは後半17分にベンチへ追いやられている。
リードを奪ってからは、ロッベンを筆頭にファン・ペルシー、カイト、スナイデルら高度な個人戦術を持つ選手たちがまさに必死の形相でピッチを駆け回り、焦るブラジルを時間の経過とともにさらに追い込んでいった。泥臭いという形容詞が最もふさわしい90分間もまた、魅惑的なサッカーとは対極の位置にある死闘としてW杯の歴史に刻まれるだろう。
世界のサッカー強国のひとつに数えられ、実際にFIFAランクでも常にシングルに位置づけられながら、これまでに獲得したメジャータイトルが1988年のヨーロッパ王者だけという歴史に終止符を打ちたい。ピッチからはオランダの選手たちのこんな思いが伝わってきた。
W杯において36年ぶりにブラジルから奪った白星。その原動力となった執念は、ファン・マルバイク監督のこのひと言に凝縮されているのではないだろうか。
「確かに昔、トータルフットボールというのがあった。だが現代ではそれでは勝てない」
自由奔放さを捨て去ったブラジルだけでなく、オランダもヨハン・クライフという「伝説」と決別してでも貪欲に勝利だけを追い求め、勝者の歴史に名前を刻もうと躍起になっている。
初戦で攻め込みながらスイスに屈したショックからか、ベスト8に進出したヨーロッパ王者スペインの魅惑さも影を潜めたままだ。
こうなると、風間氏が指摘し、私もその到来に胸を躍らせていた「個人戦術を主体にした第二期の面白い時代」は「奇将」がスポットライトを浴びるあの国に委ねられることになる。
八面六臂の大活躍で1986年のメキシコ大会を制し、「個人のサッカー」の時代の最終章を鮮やかに彩ったディエゴ・マラドーナが監督となり、南アフリカの地に乗り込んできたアルゼンチン。そのマラドーナから栄光の背番号「10」を託されたFWリオネル・メッシが、現時点で技術比べよりも我慢比べとなる傾向が強い今大会の大一番でどんなプレーを魅せるのか。
前回大会でPK戦の末に苦杯をなめた宿敵ドイツと激突する今夜11時キックオフの準々決勝で、南アフリカ大会におけるトレンドも鮮明になってくるはずだ。
2010年7月 3日 17:45|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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