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至高のファイナル。「ぶざま」がオランダ優勝のカギを握る  by 藤江直人

至高のファイナル。「ぶざま」がオランダ優勝のカギを握る  by  藤江直人

 1か月間にわたって熱戦が繰り広げられてきた、W杯南アフリカ大会の最後を飾るファイナルのキックオフまであと9時間を切った。
 ともに初優勝をかけたオランダとスペインの激突は意外にもW杯の舞台では初対決。ともに攻撃を志向するスタイルだけに興味は尽きないが、オランダにとっては準決勝でスペインの前に点差以上の完敗を喫したドイツが「反面教師」となるのではないか。


 勝負ごとにおいて相手をリスペクトすることは大切だ。しかし、一線を越えて畏怖の念を抱いてしまうと話にならない。スペインと対峙したドイツは完全に臆していた。
 ヨーロッパ王者のスペインを相手に堅守速攻で活路を見出そうとしたプランは理解できる。相手にボールをもたせて、という青写真を描いていたはずだが、あまりに正確無比で素早いパスワークに翻弄され、無意識のうちにライン全体がずるずると下がってしまった。


 これだけスペースを与えられたら、スペインが水を得た魚になるのも無理はない。前半のある時間帯ではスペインのボールポゼッションが65パーセントを超えていた。準決勝という舞台では異例の数字で、これでは前半にドイツが放ったシュートが1本だったのもうなずける。
 スペインの猛攻を最後の一線で何とかしのぐ、という展開が続けば必然的に体力と気力とを消耗させられていく。MFミュラーが出場停止でなくても結果は変わらなかったはずだ。


 そのミュラーやエジルという若手が起爆剤となり、下馬評を覆して勝ち上がってきたドイツだったが、準決勝では武器であるはずの「若さ」が不安要素を生み出してしまった。
 ならば、オランダはどうか。スペインは絶対に戦い方を変えない。だからこそ、オランダの対応がそのまま優勝カップの行方を紐解くカギになる。そして、今大会のオランダを見る限り、ドイツのように臆してしまうことはないのではないか、と見ている。


 ファン・マルバイク監督に率いられたオレンジ軍団は、従来のチームカラーと明らかに一線を画している。4‐3‐3の布陣のもとで両翼をワイドに駆使したサッカーを貫き、美しい攻撃からゴールを量産することもあれば、長所を封じられてあっさりと負けることもある。
 これがオランダの歴史であり、その典型が予選リーグでイタリアとフランスを粉砕しながら、決勝トーナメント1回戦でロシアに完敗したユーロ2008だった。


 そうした淡白な側面が影をひそめ、代わりに台頭してきたのが泥臭いと形容してもいいほどの執念。今大会における割合で言えば、執念が美しさを上回っていると言ってもいい。
 戦い方の軸は堅守速攻。快足FWロッベンが故障から復帰を果たした決勝トーナメント以降では、それがより鮮明になった。気迫で5つのゴールを押し込み、得点ランクのトップタイに立って決勝を迎えるMFスナイデルのプレースタイルは今大会のオランダの象徴でもある。


 美しく勝つオランダのこれまでの伝統を築き上げた70年代を代表するスーパースター、ヨハン・クライフ氏は、決勝戦でスペインに凱歌が上がると予想しているという。
 自身が母国に植え付けた伝統が捨て去られ、現役引退後に自身が監督を務めたバルセロナの選手たちを中心とするスペインが「クライフイズム」とも言うべき魅惑的なサッカーを21世紀のサッカー界に蘇らせているのだから、ある意味では無理のないことかもしれない。


 そのクライフ氏が残した名言のひとつに、有名な次の言葉がある。
「美しく敗れることを恥と思うな。ぶざまに勝つことを恥と思え」
 クライフ氏自身がいまでもこの言葉の最大の信奉者だが、今大会のオランダ代表チームたちは1974年の西ドイツ大会、1978年のアルゼンチン大会の決勝で何が起こったのかを知っている。美しさを貫いたオランダは、ともに決勝で開催国の気迫の前に苦杯をなめた。


 敗者は何も手にしない。だからこそ、ロッベンは決勝への思いを短い言葉に凝縮させた。
「我々はぶざまに勝つことを望む」
 スペインの勝利を予想したクライフ氏への意趣返しでもあるし、自分たちがオランダの新時代を担っているという自負も伝わってくる。32年ぶりに進んだ大舞台。今回を逃せば、いつチャンスが巡ってくるかもわからない。「ぶざま」に込められた意味は重く、深い。


 オランダはスペインの心臓部、シャビとイニエスタの両MFを徹底的に潰しにくるだろう。
 その役目を担うのは対峙した日本の選手たちが「岩のようだった」と形容したファン・ボメルと、ハードワークが自慢のデ・ヨンク。泣いても笑ってもこれが最後の一戦。たとえイエローカードをもらっても次の試合のことを考える必要がないのだから、ただでさえ泥臭い仕事を厭わない2人のボランチのチェックはますます激しさを増すはずだ。


 シャビとイニエスタに自由を与えず、パスワークのリズムを狂わせ、苛立たせることができれば必ずチャンスは生まれる。どんな形でもチャンスをゴールに変えて、勝利を強引にたぐり寄せる。ファン・マルバイク監督もそんな青写真を描いているからこそこう豪語しているのだろう。
「強い者が勝つのではなく、勝った者が強い。確かに昔、トータル・フットボールというものがあったが、現代のサッカーはそれだけでは勝てない」
 何と言われようと覚悟は決まっている。優勝するために南アフリカの地にきたんだ、と。


 くしくも新旧のオランダスタイルの激突となったファイナル。オランダの選手たちは貪欲なまでに勝利に飢えているし、スペインの選手たちの理想へのこだわりも半端なく強い。
 まさに実力伯仲。いまから心臓の鼓動が高鳴ってくるが、W杯のファイナルという舞台においては、美しいサッカーが結実しない歴史が繰り返されてきたのも事実。だとすると、史上8番目の優勝国はオレンジ軍団となるのではないか。キーワードはもちろん「ぶざま」となる。

 


2010年7月11日 18:55|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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