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W杯閉幕!スペイン悲願の世界制覇がもたらす潮流 by 藤江直人

■W杯南アフリカ大会・決勝
スペイン代表 1‐0(前後半/延長前半0‐0) オランダ代表
[7月12日午前3時半(日本時間)キックオフ@サッカーシティー競技場/観衆8万4490人]
オランダの思惑通りに進んだ決勝戦だった。テクニシャンぞろいのスペインに心地よくハーモニーを奏でられては、準決勝で完敗したドイツの二の舞を踏む。ならば強引にでもノイズを割り込ませ、相手を削ってでもパスワークを寸断し、泥試合に引きずり込むしかない。
前後半の90分間を通じて提示されたイエローカードはオランダの6枚に対し、今大会のフェアプレー賞を受賞したスペインも3枚。前半28分には一発退場となってもおかしくないオランダMFデ・ヨングの跳び蹴りが、シャビ・アロンソの胸を直撃した。
元オランダ代表のスーパースター、ヨハン・クライフ氏をして「汚くて醜い」と言わしめたオランダの選手たちの、ファウルを厭わないハードなプレーは間違いなくブブゼラを超える雑音となってスペインを苛立たせていた。
もっとも、時間が経過するとともに誤算も顔をもたげてくる。オランダの思惑は90分間で決着をつけることが大前提になっていたはずだ。延長戦にもつれ込めば心身の疲労もかさみ、スペインから受けるプレッシャーも増し、想定外の事態を招くリスクが高まってくる。
後半17分と38分の2度にわたって、FWロッベンが高速ドリブルのギアを一気にトップに入れてスペインの最終ラインの裏に抜け出した。
微妙にリズムを狂わせたスペインの虚を突く、まさに絵に描いたような1対1のビッグチャンス。しかし、スペインのキャプテンでもあるGKカシージャスが冷静な反応を見せる。1本目は体勢を崩しながら右足で弾き、2本目はシュートを打たれる前にキャッチして事なきを得た。
計らずも突入した延長戦の後半4分。脳裏をよぎっていた悪夢が現実のものとなる。
最終ラインの裏に抜け出そうとしたMFイニエスタを、たまらずセンターバックのハイティンハが背後からユニホームを引っ張るようにして倒してしまう。
問答無用のイエローカード。後半12分にも警告を受けていたハイティンハに宣告された退場が、すでに3枚の交代カードを使い切っていたオランダの思惑を崩壊させる序曲になった。
イニエスタの決勝ゴールが決まるのはその7分後。マークについたのは守備を不得手とする司令塔のファン・デル・ファールト。PK戦突入まであと4分の場面だった。
美しさを捨て、伝統とも決別した。批判されるのは覚悟の上。クライフ氏から「低俗で興ざめだった」とまで酷評されても、オランダのファン・マルバイク監督は結果にこだわった。
敗者は何も手にしない。W杯の頂点とは無縁だったオランダの歴史を痛いほどに知っているからこそ武骨に勝利を追い求めた。結果は3度目の準優勝。クライフ氏から「強いチームを作ることには成功した」と労われても、何の慰めにもならなかったのだろう。
表彰式を終えると、指揮官は授与されたばかりのメダルを首から引き剥がすように外した。
その一方で、悲願の初優勝で8番目の優勝国として歴史に名前を刻んだ勝者スペインが手にしたもは、栄光と歓喜の雄叫びのほかに何があるのだろうか。
スペインは繰り返されるオランダの挑発にも最後の一線を越えず、最後まで自身の美学にこだわった。ナバス、セスク、そしてフェルナンド・トーレスと次々に攻撃的な選手を投入し、オランダにプレッシャーをかけ続けたデルボスケ監督のさい配も一貫していた。スペイン国内のメディアが「美しいサッカーの勝利」と勝ち誇って伝えたのもうなずける。
しかし、その美しさを支えたのは特定のチームに所属する選手たちの「あうんの呼吸」だったのも見逃せない事実だ。
スペイン代表の心臓を司ったシャビとイニエスタの最強コンビに加えて、ペドロ、ブスケツ、プジョルとピケのセンターバックコンビとまさにセンターライン6人が今シーズンのリーガ・エスパニョーラを制したバルセロナでもレギュラーを張っている。加えて、5ゴールで大会得点王の一人に名前を連ねたFWビジャも新シーズンからバルセロナの一員になる。
特定のチームをベースに代表チームを構成する手法は世界でも決して珍しいことではないし、バルセロナ勢に極端に偏った先発メンバーが選ばれたことを批判するつもりもない。
バルセロナの伝統と歴史をそのままスペイン代表に移行させ、見ている側を魅了するパスワークで悲願の世界一を勝ち取ったデルボスケ監督と選手たちには心から敬意を表する。
しかし、スペインのサッカーが「次回のW杯までの4年間における世界の指標になる」という見方が正しいのかと言われれば、素直にイエスと返せないのが率直な意見だ。
南アフリカ大会を制した美しいサッカーは、いま現在のスペイン代表にしか実践できない。バルセロナというスーパーチームを国内リーグに擁する国にしか実践できない。さらに突っ込んで言えば、シャビという稀代のパッサーがいなければまったく別のチームに変わる。
日本代表MF遠藤保仁からこんな言葉を聞いたことがある。
「できれば、スペインみたいに魅せた上で勝ちたいじゃないですか。日本もゆくゆくはああいうサッカーがしたいな、と思っているんです」
ユーロ2008でスペイン代表が頂点に立ち、翌シーズンの欧州チャンピオンズリーグをバルセロナが圧倒的な強さと美しさで制した頃のことだ。
スペインのサッカーはフットボーラーにとって究極の理想。そんな憧憬の思いが、簡単には真似できないという畏敬の念が、遠藤が発した「ゆくゆくは」という言葉に込められている。
くしくも、遠藤とシャビは同じ1980年生まれ。ナイジェリアで開催されたワールドユース決勝の舞台で対峙してから11年の歳月が流れ、今年1月にはそろって30歳を迎えた。
スペインのデルボスケ監督は試合後にスペインスタイルの確立を宣言したという。
「我々の取り組み、そしてスタイルはこれからも継承され続けていくだろう。我々のチームにはすばらしい選手たちがいて、彼らはいつでもピッチに立つ準備ができている」
シャビは連覇を目指す2年後のユーロで32歳、4年後のブラジルW杯では34歳になる。代表のユニホームに別れを告げる瞬間が刻々と迫っているが、バトンはイニエスタ、今大会で10番を背負った23歳のセスクに受け継がれることを見越しての指揮官の発言だろう。
シャビもイニエスタも、現在はアーセナルの中盤に君臨するセスクもバルセロナの下部組織(カンテラ)の出身。アルゼンチン代表のメッシも育てたこの黄金郷からはこれからも次代を担う逸材が次々と輩出され、バルセロナ、そしてスペイン代表の中核をなすだろう。
地域主義が根深く、代表チームへの関心が低い時代が長く続いてきたスペインにとって、代表チームと分離独立意識が強いカタルーニャ州の象徴であるバルセロナが「運命共同体」であることをスペイン国民全体が認識したならば、悲願の初優勝にさらに付加価値がつく。
バルセロナのカンテラは1979年に創設され、1988年にトップチーム監督に就任したクライフ氏のもとで有能な若手選手たちが一気に大輪の花を咲かせて充実期に入った。
いわば30年以上の歴史と実績、確固たるノウハウがあるわけで、それらがスペイン代表に還元されてきたいま、「南アを制した美しいサッカーが次回W杯までの4年間における世界の指標になる」という見方に対して異を唱えた最大の理由だ。世界中の指導者が憧れるスタイルであることは否定できないが、一朝一夕でコピーできるものでもないからだ。
スペイン代表は円熟期を迎えたシャビを中心に、美しさにさらに磨きをかけてくるだろう。ならば、対峙するライバル国はどう出てくるか。
決勝の舞台でオランダが選択した武骨な肉弾戦もさることながら、ひとつの参考となるのが1次リーグ初戦でスペインにまさかの黒星をつけたスイスの戦い方となるのではないか。
自陣に人数をかけた強固なブロックを築き、相手がパスワークで攻め込んでくるスペースを消し刺し、わずかなチャンスに乾坤一擲のカウンターを仕掛ける。シャビのような司令塔を育てるには相当の時間を要するが、堅守速攻を徹底させるのならばはるかに短時間で済む。
世界の潮流はスペインに対抗する形でおのずと「堅守速攻」に傾いていくだろう。その中において「体のサイズも同じでスピードもさほど変わりない」という観点から、日本もスペインのサッカーをお手本にすべきだという声が出ているが、さすがに「性急」と言わざるを得ない。
まずは今大会における堅守速攻を継続させるのか否か。何が通用して、何が通用しなかったのか。こうした検証を何よりも優先させ、その結論に沿った方針で新監督を選定し、一方で昨年のU‐20W杯出場を逃した世代を含めて若年層の強化のあり方も徹底して見直す。
これまでのように、4年間というW杯のサイクルごとに目指すベクトルがコロコロと、まるで猫の目のように変わることはもう許されない。
1998年のフランス大会を皮切りに4大会連続でW杯に出場し、自国開催以外の大会で初めてとなる白星を挙げ、決勝トーナメント進出というハードルを乗り越えたいま、まずはしっかりと足元を見つめて、日本代表の普遍的なチームカラーやスタイルを鮮明に打ち出す。
そうしたベースに理想を上塗りしていくのは、遠藤が言うように「ゆくゆくは」でいい。
2010年7月13日 06:00|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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