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現状維持か秋春制移行か。Jリーグが抱えるジレンマ by 藤江直人
■J1第16節
横浜F・マリノス[勝ち点22] 0‐2(前半0‐1) 名古屋グランパス[勝ち点32]
[7月31日午後7時キックオフ@日産スタジアム/観衆2万9964人]
キックオフ30分前の気温が29.8度。湿度が73パーセント。一時のうだるような酷暑ではないものの、それでも暑い。というよりも蒸し暑い。風通しがまだいい記者席のレベルでこうなのだから、すり鉢状のピッチレベルでは推して知るべし、のはずだ。
5分もたたないうちに、選手たちの顔から大粒の汗がしたたりおちる。横浜F・マリノス、名古屋グランパスともに8日間で3試合目。過酷な気象条件に過密日程が追い打ちをかけたのか。マリノスの注目の17歳、FW小野裕二は3試合ぶりのベンチスタートとなった。木村和司監督は「いくら高校生で若いといっても、疲れとるからのう」と理由を説明した。
その小野が初先発、初のフル出場、初のアシストを決めてヒーローになった1週間前のガンバ大阪戦。実は前半35分すぎに大ブーイングが日産スタジアムを揺るがしている。
発信源はマリノスサポータが陣取るゴール裏。対象はガンバではなくマリノス。最終ラインで何度もパスを交換しているところへ、業を煮やしたように「もっと攻めろ」と要求したのだ。
この試合は序盤から攻守がめまぐるしく入れ替わっていた。さすがに前線の選手の足が止まりかけ、ボールの出しどころがなくなっていた時間帯。30度に達していた暑さを考えれば小休止と言ってもよかっただけに、ブーイングを浴びたマリノスの選手たちが気の毒に思えた。
Jリーグの秋春シーズン制への移行を強く主張し、当時の鬼武健二チェアマンと対立したこともある日本サッカー協会の犬飼基昭前会長はその理由として2点を挙げていた。ひとつはヨーロッパのサッカーカレンダーに合わせることで日本代表の強化スケジュールが組みやすくなる点。もうひとつが酷暑によって選手のパフォーマンスの質が低下してしまう点だ。
浦和レッズの社長時代。真夏に行われた試合内容があまりに悪く、試合後に選手たちを叱咤激励したところ「とてもじゃないけれど、この暑さの中でいいサッカーなんてできません」という言葉が返ってきたという。この経験が犬飼前会長の主張の最大の拠り所になっていた。
犬飼前会長は酷暑のもとで試合が行われる弊害をこう説いていた。
「あんなサッカーを見せて、お客さんからお金を取るなんて失礼。いまに誰も来なくなる」
Jリーグ選手協会が行ったアンケートでも秋春シーズン制への移行を支持する声が大多数を占めたというが、これは実際にピッチ上でプレーする側の偽らざる本音だろう。
内容の伴った試合をすればおのずとスタンドも埋まる。選手たちや犬飼前会長のこうした持論は、まずファンに足を運んでもらう条件ありきの現状維持派と対極の位置にある。それ以上に、電撃的とも言える日本サッカー協会のトップの交代で状況は一変した。
小倉純二新会長は7月25日の就任会見の席で喫緊に取り組む4つの課題を挙げたが、その中にJリーグの秋春シーズン制への移行は含まれていなかった。そればかりか、FIFA理事として現地に赴いていたW杯南アフリカ大会で顕著になた「ある傾向」を指摘している。
全10会場のうち、ポロクワネやルステンブルク、ネルスプロイトなど南アフリカ共和国の中でも寒冷地となる北部の都市のスタジアムの平均観客数が極端に低かったという。小倉会長によれば、FIFAは最終的に「寒いとファンは来ない」と結論付けたという。同会長自身が海沿いで温暖な南部のポート・エリザベスの責任者を務めていただけに、なおさら気象条件が観客動員に与える影響を実感しているのだろう。
次回の2014年大会も南半球のブラジルで冬場の開催となるだけに、南アフリカ大会で顕著になった傾向は申し送り事項としてブラジルW杯の大会組織委員会に伝えられた。
小倉会長は「日本ともつながる問題」とした上で、シーズン制の移行について「冬でもサッカーができる環境を整えていくことが第一。現状では無理強いはできない」と明言している。これはJリーグの第4代チェアマンに就任した大東和美・鹿島アントラーズ前社長の方針とも一致する。大東チェアマンは新たに日本協会の副会長にも就任しているだけに、今後数年間においては、シーズン制移行問題に関しては現状維持でほぼ大勢は決したと言っていい。
秋春シーズン制への移行には、北海道をはじめとする降雪地域のチームが特に強く反対していた。今回の南アW杯における傾向をそのまま当てはめれば、12月や1月に雪が降る中で試合を開催すればファンの足は遠のく。現状では収入の最大の柱が入場料となっているだけに、経営的に立ち行かなくなるチームも出てきても何ら不思議ではない。
トヨタカップやクラブW杯などで真冬の取材経験があるが、手の指先がかじかむのを必死にこらえながら「勘弁してくれよ」という思いにかられたことは一度や二度ではない。首都圏でこうなのだから、降雪地域の場合はどうなるか。容易に推測がつく。
その一方で、最も大切なのは実際にサッカーをする選手だということを考えれば、心身を激しく消耗させる夏場の戦いが続くことは決してプラスにはならない。
特に今年の日本の夏は異常なほどの暑さが続く。8月に入ると、お盆が明けた週に再び平日夜にナイターが入る過密日程が待っている。W杯効果にわくスタジアムはいまのところ盛況で、ビールなどの飲料の売れ行きもいいはずだが、選手たちはたまったものじゃないだろう。
マリノスは8月1、2日をオフに充てた。現時点で体調を崩した選手がいないことが救いだ。
マリノスとグランパスの一戦は、自陣でブロックを形成し、カウンターを狙うグランパスの戦法が的中。敵地で2対0と完勝した。後半開始と同時に投入された小野も、ほとんど仕事ができない中で18分には判定に異議を唱えて4戦目で初のイエローカードをもらってしまった。
「パーフェクト。守備はしっかりしていたし、カウンターアタックは相手に脅威を与えていた」
首位アントラーズとの勝ち点2差をしっかりキープしたストイコビッチ監督は試合後の記者会見でご満悦の表情を浮かべていたが、この暑さを考えれば、ここ一番に勝負をかけてくる省エネ的な戦いにシフトするチームが必然的に増えるだろう。マリノスのMF兵頭慎剛がこう呟く。
「グランパスにやられたという感覚はないんですけど...」
春秋シーズン制の維持か、秋春シーズン制か。どちらが日本にはふさわしいのか。
集客事情を考えれば前者となるが、長い目で見れば、低パフォーマンスの試合を続ければどのような事態を招くか。選手本位で考えれば後者になるが、18シーズン目を迎え、すでに文化として定着しかけている春秋シーズン制を覆すにはそれなりのリスクを伴う。
まさに究極のジレンマ。双方のシーズンに利点も懸念材料もある中で、真夏の試合を取材するたびにそう思う。「降雪地域をもつリーグの宿命」とは鬼武前チェアマンの言葉だが、現状では選手の踏ん張り、頑張りだけで過酷な夏場を乗り切っていることも忘れてはならない。
そのJ1は8月7、8日の次節でようやく長く、険しいシーズンの折り返し点を迎える。
2010年7月31日 23:57|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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