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脳裏をかすめる「たら、れば」。川崎フロンターレの苦闘  by 藤江直人

■J1第17節
セレッソ大阪[勝ち点27] 0‐0 川崎フロンターレ[勝ち点29]
[8月8日午後6時キックオフ@キンチョウスタジアム/観衆1万4031人]


 勝負の世界に「たら、れば」は御法度だが、17本ものシュートを放ちながら無得点に終わった川崎フロンターレの戦いぶりを見ていると、禁を破りたくなる衝動に何度もかられてしまう。
 人間ブルドーザーなる異名を頂戴した、あの男がいたら......と。
 そうした思いは敵味方の垣根を越えて不思議とシンクロする。長居球技場が改修され、キンチョウスタジアムと名称が変わった最初の一戦。残念ながら勝利で飾れなかったセレッソ大阪の関係者は、「たら、れば」の状況を思い浮かべながら勝ち点1獲得を素直に喜んだ。
「ウチも点を取れなかったけど、相手にテセ(鄭大世)がいなかったというのもあるよね」


 北朝鮮代表FWとしてW杯南アフリカ大会に出場した鄭大世が、ブンデスリーガ2部のボーフムへ電撃移籍したのは7月。同時期に日本代表GK川島永嗣をベルギー1部リーグのリールスに送り出したフロンターレは、3シーズン連続で2けたゴールをマークした絶対的エースと不動の守護神を欠いた陣容で7月14日に再開された後半戦に臨まざるを得なかった。
 鄭の代役にはFW黒津勝が指名された。埼玉・花咲徳栄高から2001年に入団し、以来、フロンターレ一筋10年目のレフティー。相手の最終ラインの裏に抜け出すスピードと左足から放たれる強烈なシュートは他チームにとって脅威であり、魅力的でもあったのか。「黒津がほしい」とラブコールを送ったJクラブの監督は、実際のところ一人や二人ではなかった。


 その黒津がセレッソ戦で決定機を逃してサポーターのため息を誘った。それも、2度も。
 最初は前半31分。左サイドを抜け出したFWジュニーニョが、絶妙のパスをゴール前でフリーだった黒津に送る。しかし、利き足の左足でミートすることができず、ボールは相手DFにクリアされた。後半22分にはジュニーニョとのワン・ツーから再び黒津がゴール前に抜け出したが、相手GKをかわして放たれた一撃は無情にも左ポストをかすめてしまった。
「チャンスをつくるだけの力はあるが、点を取れないと勝てない。3回に1回は決めないと」
 7戦連続で敵地で勝てないもどかしさ。日本代表MF中村憲剛も思わず肩を落とした。


 決して黒津個人を責めているわけではないし、責めるつもりも毛頭ない。
 開幕から全試合に先発し、攻撃陣ではチーム最長の1431分間プレー。鄭大世だけでなく、第14節まで故障離脱していたジュニーニョの代役も務めた。5ゴールは鄭大世と並ぶチーム2位。2006年にマークした自己最多の7ゴールを更新するのも時間の問題だ。
 奮闘ぶりは誰もが認める。それでも、物足りなさは残る。理由はふたつ。例えるなら機動力を兼ね備えた重戦車と言うべき、典型的なセンターフォワードの鄭大世とは根本的にタイプが異なるFWであることと、シーズンの真っ只中における主力流出の弊害という点だ。


 言うまでもなく、サッカー界はヨーロッパを中心に回っている。カレンダーもヨーロッパの主要リーグに合わせられ、移籍市場も主要リーグの開幕前となる夏場に最も活況を呈する。
 春秋シーズン制を採用しているJリーグにとって、夏場の戦いはそのシーズンの覇権の行方を左右するクライマックスのひとつ。しかしながら、今年のようにW杯の舞台で所属選手が脚光を浴び、新しいシーズンを控えたヨーロッパのクラブから獲得のオファーを受ければ、Jクラブ側には引き留める術がないのが現状だ。フロンターレのように、結果として夏場をはさんだ前後でまったく異なるチーム作りやチーム戦術を強いられることになる。


 より高いステージでの戦いに臨むな、と選手たちに言うことはできない。サポーターも自分たちのクラブで育った愛してやまない選手の旅立ちを涙をこらえて祝福するはずだ。
 そして、別離という感傷的な思いに浸る間もなく現実に引き戻される。鄭大世と川島を欠いたフロンターレはJ1の6試合を戦って2勝3分け1敗。勝ち点こそ9を積み重ねているが、引き分けはすべてスコアレス。2シーズン連続でJ1最多得点を叩き出してきた攻撃力がウリのチームであることを考えると、大宮アルディージャやモンテディオ山形といった下位に低迷するチームに引き分けたことは、敵地とはいえ長い目で見れば「取りこぼし」になりかねない。


 Jリーグがヨーロッパの主要リーグと同じカレンダーとなる秋春シーズン制をとっていれば、まだ対処のしようがある。海外クラブから獲得のオファーを受けた時点で、主力選手の流出を想定した上で、Jクラブ側もリーグ戦開幕へ向けて的確かつ迅速な補強ができるからだ。
 こうした点を、Jリーグ前チェアマンの鬼武健二氏にぶつけたことがある。70歳の定年で2期4年の任期を終えた先月20日の懇親会の席。返ってきたのはごく短い言葉だった。
「それは仕方のないこと。各クラブが頑張るしかない」


 春秋シーズン制の維持はJクラブ全体の総意であることは何度も確認されてきた。収入の最大の柱となっている観客動員の観点から考えれば、寒冷地対策が完璧に施されたスタジアムや練習設備という絶対条件が満たされるまでシーズンの移行はできない。
 こうした「鬼武論」は大東和美・4代目チェアマンに継承され、秋春制への移行を強硬に唱えてきた前任者に代わった日本協会の小倉純二新会長も同調している。問題そのものが実質的に封印された中で、中心選手の海外移籍に伴う戦力ダウンに関しては今後も各クラブの努力で補ってもらうしかない。日本サッカー界を取りまく現状を誰よりも分かっているからこそ、「仕方のないこと」というぶっきらぼうな言葉が鬼武氏の口を突いて出てきたのだろう。


 今シーズンを振り返れば、W杯開幕前の時点でアントラーズのDF内田篤人がシャルケ、セレッソのMF香川真司がドルトムントとともにブンデスリーガへ旅立つことが決まっていた。W杯後には鄭大世と川島に加えて、DF長友祐都がFC東京からセリエAのチェゼーナへ移籍。アントラーズの韓国代表DF李正秀は豊富な資金を擁する中東のクラブへ引き抜かれた。 
 内田と香川のケースは、幸いにもW杯でJ1が中断されている間に行われたキャンプで対策を講じられた。フロンターレは、川島から守護神の座を受け継いだ28歳の相澤貴志が出場6試合中で4戦を零封。J1におけるキャリアがわずか46試合だったことを感じさせないパフォーマンスを見せている。王者アントラーズは厚い選手層で李正秀の穴をカバーしている状況だ。


 ベガルタ仙台のDF朴柱成が試合中に熱中症で倒れ、退場を余儀なくされるほどの過酷な暑さの中での戦いを選手の頑張りで乗り切るしかないのと同様に、主力を海外流出で欠いたチームは代役に指名された選手の奮起に頼らざるを得ないのが現状だ。
 開幕直後から中村憲やジュニーニョを故障で欠きながら踏ん張り、万全の状態で後半戦からの巻き返しを図ろうとしていたフロンターレの高畠勉監督は前半戦をこう総括している。
「いろいろなことが起こったが、その中で出ている選手の特徴を生かしつつ、フロンターレらしいサッカーはでてきているかな、と思っている。後半戦も勝ち点を積み重ねていきたい」


 勝ち点29での4位ターン。指揮官は「30点台にはいきたかった」と思わず本音も漏らしたが、7差をつけられた首位エスパルスは追尾可能な射程距離にあると力を込めた。
「川島が移籍したことで、GKでは相澤が活躍することが上位へいくための大事な条件だった。その意味で、彼のパフォーマンスには非常に満足している。相澤を中心とする守備陣のコミュニケーションは試合を重ねるごとにどんどんよくなる手応えは感じている」
 少なくともGKに関しては「たら、れば」は言わせない。務めて前を向く指揮官の言葉が、黒津をはじめとする悩める攻撃陣を鼓舞するかのように記者会見場に響きわたった。
 

2010年8月 9日 22:07|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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