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王者アントラーズを沈黙させた今野泰幸の意外力 by 藤江直人
■J1第18節
鹿島アントラーズ[勝ち点35] 1‐1(前半1‐0) FC東京[勝ち点20]
[8月14日午後7時キックオフ@カシマスタジアム/観衆2万3640人]
W杯南アフリカ大会代表に名前を連ねた今野泰幸は、嬉しい悩みを抱えていた。
「親によく言われるんです。シャビやイニエスタのように積極的に前に行ってほしいって」
今野自身、バルセロナの大ファンを自任している。テレビでリーガ・エスパニョーラの試合が放送される時は、自然と心臓部を司るシャビとイニエスタの動きに目を奪われる。
「ヤヤ・トゥーレも見ますけど、やはりあの2人。ああいう選手になりたいですよね」
後半戦の幕開けとなった鹿島アントラーズ戦。1点のビハインドで迎えた後半41分。両親の究極とも言えるおねだりに応えるかのように、先のW杯で世界一を戴冠した原動力にもなった2人のスペイン代表選手との「距離」を、一瞬ながら今野が詰めてみせた。
右サイドでのパス交換からMF大竹洋平が中央へドリブルで抜け出す。ゴール前でクサビのパスを受けたFW大黒将志が、ダイレクトで後方へ落とす。そこに猛然と走り込んできたのは、後半に入ってセンターバックからボランチへポジションを上げていた今野。巧みなトラップ。マークにきたDF岩政大樹を翻弄する鮮やかなフェイント。ペナルティーエリアの外からゴール右隅を狙った左足の正確無比なシュートに、GK曽ヶ端準は一歩も動けなかった。
「いい形で前へボールを持っていけた。ミドルシュートは練習している通りの形です」
王者を沈黙させた同点弾が、ゴール裏を赤青に染めたサポーターを狂喜乱舞させた。
意外性と言っては失礼にあたるかもしれない。通算5ゴールはチームトップをひた走る。
「追いかける状況なので(今野の)シュートの精度の高さを生かしたいというのもあった」
自ら「Jリーグでトップのセンターバック」と公言し、全幅の信頼を寄せる今野をボランチに上げた理由を説明したFC東京の城福浩監督は、その一方で19歳のFW重松健太郎の3ゴールが最高と決定力を欠き続ける攻撃陣に苦言を呈するのも忘れなかった。
「私の記憶では、チームの得点王は今野。そういう点が嬉しくもあり、また忌々しきところでもある。同時にそれがこのチームの課題でもある」
センターバック、ボランチ、そして左右のサイドバック。守備的なポジションのすべてでハイレベルのパフォーマンスを演じられる今野にとって、ボランチは最も思い入れが強い。
「プロになって一番長くプレーしたポジション。昨シーズンの途中でセンターバックにコンバートされた当初は、実はちょっと悩みました。ボランチをやりたかったんですかね」
カッコよくいえばユーティリティープレーヤー。ややネガティブな言い方をすれば便利屋。それでも、真面目で献身的、かつ飾らない朴訥な性格で誰からも愛され、いじられキャラでもある27歳は、いつどんな時でも「フォア・ザ・チーム」を最優先にしてピッチに立っている。
今野「だからといって、絶対にボランチじゃなきゃイヤだというのはない。監督が使ってくれるのならどこでも出たい、と僕は思っている。こだわりというものは特にない。監督が使ってくれるというのは、そのポジションで僕のことを期待してくれているから。やっぱり監督から『コイツがいてよかったな』と思われる選手になりたいんです。FC東京でも日本代表でも、自分がこれから所属するチームの監督には常にそう思われたいんです。ユーティリティーという言葉は大好きですね。代表でいうと、阿部ちゃんとポジションもスタイルも似ているかな。ただ、器用貧乏と言われないように、与えられたポジションでしっかりと仕事をしないと(笑)」
自身初のW杯となった先の南アフリカ大会。不調の内田篤人に代わって右サイドバックのレギュラーをつかみかけながら、直前のコートジボワール戦で右ひざのじん帯を損傷した。
右サイドバックには駒野友一が配され、土壇場になって岡田武史監督が採用を決めたアンカーの位置には「スタイルが似ている」と公言してはばからない阿部勇樹が指名された。
もちろん忸怩たる思いはあったはずだが、それを胸の奥底に封印するのが今野の流儀。一時はチームへの帯同そのものが危ぶまれた大けがからの回復に必死になって努め、デンマークとのグループリーグ最終戦の残り2分からピッチに登場。守備固めで勝利に貢献した。
わずか1試合、ロスタイムを含めて4分強のW杯。しかしながら、今野は夢舞台が開幕するはるか前から、いつ果てることのないチャレンジの旅路を思い描いていた。
「サッカーにおいて成長することに終わりはないと思っているので。南アの代表に選ばれても、まだまだ......ゴールって何ですかね? 多分、ないと思います」
下位に甘んじるFC東京がJ1で3番目に少ない19失点で踏ん張っていられるのは、ただ一人、フル出場を続ける今野の存在を抜きには語れない。そして、憧れのバルセロナのシャビやイニエスタをほうふつとさせた起死回生の同点弾。今野はいまも進化をやめようとしない。
サポーターもそれを感じているのか。試合後の敵地には「コンノコール」がこだました。
「スキのない鹿島に対し、何度もチャレンジしたことがゴールにつながった。チーム得点王うんぬんは関係ない。全員でゴールを奪うのがFC東京。やっぱり勝ち点3がほしかったし、確かに苦しい状況ですけど、練習から全員が頑張っている。いつかいい流れが来ると信じている」
ナビスコカップ制覇の実績をひっさげ、悲願のJ1初優勝を掲げて臨んだ今シーズン。再開後も1勝3分け2敗と上昇気流に乗れない中で、チームが苦境の時に神懸かり的な活躍をすることで「スーパーコンちゃん」とあだ名された男は、残り16試合での巻き返しを誓っていた。
2010年8月15日 15:47|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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