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セレッソ大阪の躍進に導かれる天才・家長昭博の覚醒  by 藤江直人

■J1第20節
鹿島アントラーズ[勝ち点36] 0‐1(前半0‐0) セレッソ大阪[勝ち点36]
[8月21日午後6時半キックオフ@カシマスタジアム/観衆1万9024人]


 9月中旬発売の『論スポ』第8号の企画で、Jリーグの技術委員長を務める上野山信行氏にインタビュー取材を行った。宮本恒靖、稲本潤一、大黒将志、最近では18歳の宇佐美貴史と優秀な人材を続々と輩出してきたガンバ大阪の下部組織の基盤を築き、指導・統括してきた上野山氏の「育成論」をうかがう内容だったが、取材の最後にこんなことを聞いてみた。
 ガンバ大阪ユースの「最高傑作」と言えば誰になるのか。
 メディアでは宇佐美がその肩書きを頂戴しているが、上野山氏の考えは違った。
「一番は、やっぱり家長でしょう」


 家長昭博。高校3年生だった2004年7月にガンバ大阪のトップに昇格し、卓越した攻撃センスと左利きで右ウイングに配されたことから、バルセロナのメッシの「和製版」と脚光を浴びた攻撃的MFだ。もっとも、上野山氏が指摘する「一番」には但し書きが付けられている。
「ポテンシャルでは、ね」
 南アW杯を戦ったMF遠藤保仁も、昨年5月の取材時にこんなことを語っていた。
「能力だけなら家長が一番。彼がガンバのユースにいる時から『すごい』と聞かされてきて、実際にトップに昇格した時もそう思った。すぐにでもA代表に入ってくるんじゃないかと」


 恩師から但し書きを付けられ、先輩からは過去形で語られている点に、トップチーム昇格後の家長の苦悩が凝縮されている。厳しい言い方をすれば「伸び悩み」となるのだろうか。
 若さゆえに好不調の波が激しく、選手層が厚いガンバでなかなかレギュラーポジションを獲得できない。出場機会を求めて08年に大分トリニータに期限付き移籍したが、開幕前のキャンプで右ひざ前十字じん帯を損傷。全治まで約6か月を要し、出場が確実視されていた北京五輪を棒に振った。けがの影響からその後もトップパフォーマンスは戻らず、トリニータでの2シーズン目となった昨年は左サイドバックやボランチも経験した。


 その家長が、今シーズンから新たに期限付き移籍したセレッソ大阪で輝きを放っている。
 3月の開幕当初こそエースのMF香川真司との共存に戸惑い、ベンチスタートを余儀なくされる試合が多かったが、第7節の湘南ベルマーレ戦からレギュラーに定着。香川のドルトムント移籍後は中盤の大黒柱としてピッチに君臨し、セレッソの快進撃の原動力になっている。
 迎えた王者・鹿島アントラーズ戦では、右サイドバックの高橋大輔とダイレクトパスを交換して後半10分のMF乾貴士の決勝ゴールを華麗に演出。試合後には「それほど強いとは感じなかった。後半は相手の運動量が落ちていた」と暫定2位進出をこともなげに振り返った。


 上野山氏は家長に対してこんなエールも送っていた。
「彼には何とかなってほしい。次の2014年のW杯にはぜひとも出てほしいですね」
 この言葉をアントラーズ戦後のバスに乗り込む直前の家長にぶつけてみた。
「当然、誰でも狙っているものですから」
 28歳で迎えるブラジルW杯を見すえながら、家長は自身が描く青写真を明かしてくれた。
「自分のストロングポイントを磨いていかないと(W杯は)見えてこない。これという自分の武器がないと、ああいう舞台では活躍できないと思っているので」


 ならば、家長が携えるべき「武器」とは何なのか。返ってきたのは意外な言葉だった。
「模索中です。とにかく、いまは自分の力をつけていきたい」
 南アW杯でまばゆいスポットライトを浴びたMF本田圭佑とは、くしくも同じ1986年6月13日に生まれた。ガンバのジュニアユースでお互いに切磋琢磨した仲でもあるが、ガンバのユース昇格を見送られた本田はその悔しさを糧に世界へと羽ばたいていった。
 もちろん歯がゆさは感じているだろう。しかし、自身のブログのタイトルを「拝啓 自分不器用デスカラ」としているように、慣れ親しんだガンバを飛び出し、例えどんなに遠回りをしてでも「家長昭博」というプレーヤーの真の姿を必死に探し出そうとしている。


 そして、おぼろげながら武器のヒントも見えている。
 8月15日の京都サンガ戦。後半36分に飛び出した家長の豪快なミドルシュートで1対0の完封勝利を飾った直後に、セレッソのレヴィー・クルピ監督はこう語っている。
「家長は技術的に本当にいいものをもっている。パスもしっかりと出せるし、下半身が非常に強く、フィジカル的にもタマ際に強い。そうしたクオリティーを兼ね備えているが、逆に彼に今後も求めたいのはフィニッシュの数を増やすこと。ゴールの数が増えていけば、間違いなく日本のサッカー界を背負って立つ選手になると思っている」


 セレッソの18失点はリーグ最少。元日本代表の茂庭照幸を軸とする最終ラインの前に、マルチネスとアマラウの2人の経験豊富なブラジル人ボランチが並ぶ守備陣は磐石。家長や野洲高校で全国を制覇した経験をもつ乾ら若手が思う存分に暴れられる環境が整う。
「春先は僕を含めて新加入の選手が多くいたのでなかなか噛み合わないところがあったけど、いまは自分たちのサッカーができるようになった」
 7月のJ1再開後で6勝2分け1敗、20得点に対して5失点と群を抜く攻守のバランスに支えられた快進撃に家長も手応えを感じている。イビチャ・オシム氏もその才能にほれ込み、07年3月にA代表デビューさせた逸材が、いよいよ覚醒の時を迎えようとしている。

2010年8月22日 14:32|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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