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「交渉のプロ」不在が招いた日本代表監督選定の難航  by 藤江直人

 説明を重ねるごとに首をひねりたくなってくる。悪循環とはこのことを言うのだろう。
 難航しているサッカーの次期日本代表監督選定について、日本サッカー協会の原博実強化担当技術委員長は、現時点で最終的な条件の提示を済ませている3人の外国人候補者からの返答期限を日本時間の今月28日に設定していることを明らかにした。
「3人の中で確実にいけると思う人がいる。合意できる可能性がある」
 原委員長は早期決着が近いことを強調しているが、ヨーロッパから緊急帰国した24日の午後に「釈明会見」を行って以降、その発言は日に日に心もとなさを増している。


 25日には意中の人物との最終合意が近いとする理由について「そう信じている」と明言。3人の候補への「てんびん」のかけ方までも微に入り細で報道陣に説明している。
 原委員長は24日の会見でレアル・マドリッド前監督のマヌエル・ペジェグリーニ氏、先にオリンピアコス監督に復帰したエルネスト・バルベルデ氏からオファーを断られていたことを明かした。前者は無冠に終わった昨シーズンの責任を取って解任されたものの、リーグ戦ではクラブ史上最高の勝ち点96を獲得。46歳の後者は2シーズン前に一度指揮を執ったオリンピアコスを躍進させ、ヨーロッパで将来を嘱望される青年指導者の一人に挙げられている。


 原委員長は自らが描き、求めてきた新監督像をこのように説明している。
「今回のW杯で日本はよく戦ったが、もうワンランク上に行くには個人の技術、戦術、判断力を上げないといけない。そして、指導者も海外で代表監督経験があるか、ヨーロッパや南米のJよりもレベルの高いクラブでの経験、チャンピオンズリーグやリベスタドーレスカップの経験がある監督で、なおかつ日本をリスペクトして、オシムさんや岡田さんが続けてきた日本らしさを理解してくれる人。日本人スタッフとうまくやれて、ハードスケジュールに耐えられる健康な人。そういう条件を満たす監督を探そうという結論になった」


 こうした考え方に異論はない。崇高な理想にはむしろ拍手喝さいを送りたい。
 しかし、そうした原委員長の理想を具現化するだけの方策、つまり日本サッカー協会のバックアップ体制は十分だったのか。残念ながら、答えはノーと言わざるを得ない。
 新監督人事に関して、小倉純二会長は「大仁(邦弥副会長)と原にすべて任せる」と明言したが、実際には原委員長に「丸投げ」されていたと言っても過言ではない。技術委員会の本部長を務める大仁副会長は先週を夏季休暇に充て、週が明けても事態の進展が見られない状況を問われると、「原が帰ってきて話しますから」なる言葉を繰り返すだけだったという。


 交渉は候補者本人とではなく、その代理人と行う。知識も経験も豊富な、まさに海千山千、手練手管の代理人と対峙する場に、しかしながら日本サッカー協会が用意した「交渉のプロ」は不在だった。原委員長は以前に監督を務めたFC東京時代にフロントで渉外を務めた人物と、通訳を兼ねるヨーロッパ在住の日本人コーディネーターらとともに交渉を重ねてきた。
 これでまともな交渉ができるのだろうか。バルベルデ氏には古巣復帰への条件アップの材料に使われた、と思ってしまう。それでも、同副会長は正当な手順だったとこう強調する。
「原委員長が交渉下手だから延びている、ということはない。これまでも技術委員長がだいたいの話をまとめて、最後に専門家が出ていく形で進めてきた。問題はない」


 ちょっと待てよ、である。「これまでも」というのは02年のジーコ氏、06年のオシム氏の日本代表監督就任のケースを指しているが、前者は鹿島アントラーズのテクニカルディレクターを、後者はジェフ千葉の監督を務めていた。交渉もまず国内の日本人が相手となる。
 しかし、原委員長は今回の新監督招へいを「あえて世界に出て世界的な人と交渉している」と位置づけている。いわば次元の異なる挑戦であり、そこへ文字通りの「徒手空拳」で臨めば結果は明白だったはずだ。原委員長を一時帰国させたのも、監督不在で迎える9月の日本代表戦2試合への善後策を講じることと会見を通じてスポンサーの謝罪することが目的だった。


 27日には技術委員会主導で選んだ日本代表メンバーが発表される。新生ジャパンの「船出」と銘打たれた9月4日のパラグアイ戦、7日のグアテマラ戦そのものの開催意義が薄れる中で、ナビスコカップ準々決勝や天皇杯を戦うJクラブは当然のように不信感を募らせている。
「9月の2試合はインターナショナルマッチデーですから、代表チーム優先で考えていくべきだと思う。もしこのまま新監督が決まらないとしても、代表に消化試合はあり得ません」
 監督代行として指揮を執ることが決まった原委員長はJクラブに理解を求め、代表発表前には各チームの強化担当者をJFAハウスに集めて一連の経緯を直接説明する予定だ。


 招集レターはヨーロッパでプレーする8人の選手の所属クラブにも送付されている。
 その一人、フランスリーグ2部に降格したグルノーブルからの移籍を希望しながら依然として去就が決まらないMF松井大輔が「それとは別問題。日の丸を背負って戦うことは名誉」と明言しているように、幸いにも代表チームへの求心力そのものは失われていない。
 南アでのベスト16に決して満足せず、より高みを目指したいと願う選手たちの期待に応える意味でも、こうなれば時間をかけてでも世界を知る「船頭」を迎え入れたい。しかし、交渉事における日本協会の「素人ぶり」が鮮明になるほどに期待は薄れていく。


 複数の候補から回答を待っている状況では、通常では「てんびん」のかけ方を公表することなどありえない。これだけを見ても交渉のプロが不在なことが分かる。原委員長がW杯決勝戦までを観戦したことによる初動の遅れやクーデターにも等しい日本協会の会長人事なども影響している今回の大失態だが、何よりも現状では体制自体が「世界」に挑むそれではない。
 ここにきて前メキシコ代表監督のハビエル・アギーレ氏や元オランダ代表のロナルド・クーマン氏といった候補者も飛び交っているが、そうしたビッグネームがメディアを騒がせるたびに疑心暗鬼にならざるを得ない。狡猾な相手の代理人に利用されているのでは、と。

2010年8月27日 03:41|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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