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契約内容が語るザッケローニ新監督のモチベーション by 藤江直人
受話器の向こう側からは、期待よりも不安を煽るような言葉が返ってきた。イタリアの有名スポーツ紙『ガゼッタ・デロ・スポルト』のウェブ版に投稿されたという読者からのコメントを、ヨーロッパ在住のジャーナリストは苦笑いしながら紹介してくれた。
「日本がかわいそう、日本は本当のことを知っているのか、といった声が多いですよ」
何に対するコメントなのかは、もうお分かりだろう。日本代表の新監督に就任したイタリア人のアルベルト・ザッケローニ氏とは、一体どんな指導者なのか。所用もかねて国際電話を入れてみると、名将として迎え入れられたザッケローニ氏の「現在位置」が見えてきた。
セリエAにおける監督経歴は申し分ない。
守備重視のセリエAで3‐4‐3のシステムを軸にした大胆な攻撃サッカーを標榜し、ウディネーゼを3位に躍進させて脚光を浴びたのが1997‐98年シーズン。その手腕を見込まれて翌シーズンに名門ACミランの監督に就任し、いきなりスクデットを獲得した。
「でも、結局はそれだけなんですよね。その後はまったくパッとしない」
前出のジャーナリストが言うように、2000‐01年シーズン途中にACミラン監督を解任されると、その後もラツィオ、インテル、トリノといった強豪チームで指揮を執りながら、いずれの場合も任期半ばでの解任や辞任が繰り返されてきた。
そのザッケローニ新監督の就任会見が31日、都内のホテルで行われた。
「クラブチームの監督を25年以上も務めて、セリエAでも優勝した。次の大きなチャレンジは代表チームしかなかった。いろいろな話があったが、この15年という短い期間でものすごく伸びた日本と一緒にまだ伸びていく、まだ強くなりたいという気持ちがあった」
ひな壇の上で眩いフラッシュライトを浴びながら、新監督は何度も「チャレンジ」という言葉を口にした。昨シーズン途中から指揮を執ったユベントスでチームを立て直すことができずに7位に沈むと、そのまま契約を延長することなく辞任。今季はフリーの状態だった。
57歳のイタリア人のチャレンジャー魂を駆り立てたのは何だったのか。
今年1月にユベントス監督に就任するまで、実はザッケローニ氏には約3年間の浪人期間がある。しかも、再び存在感を示すまでには至らなかった。何もしないでこのまま「過去の人」としてフェードアウトしていくのであれば、もう一旗上げるために発起するのもありではないか。
クラブチームのみ、それもセリエAでしか指揮を執ったことのない同氏が、はるか異国の地でのナショナルチーム監督就任というオファーに、金銭以外の部分で魅力を感じたしても決して不思議ではない。だからこそ「チャレンジ」という言葉を用いたのだろう。
4年後のブラジルW杯まで任せたいと力説してきた交渉役の原博実・日本サッカー協会強化担当技術委員長は、会見の席で契約期間などについての明言を避けた。
しかし、前出の『ガゼッタ・デロ・スポルト』は2年間のオプションがついた2年契約で、年俸は日本円で2億と伝えている。契約内容について原委員長はこう言及している。
「どうしても日本に合わないとか、あるいはその逆で来年の南米選手権が終わったあたりでビッグクラブからオファーが来た時にどうするとか、そういうところも詰めておかないと。とりあえず契約した、ではダメ。それくらいの名前のある人を連れてくるとリスクもある」
ヨーロッパ、特に母国イタリアにおいて「終わった人」のイメージが定着しかかっているザッケローニ氏が、日本代表チームを躍進させることでそうした汚名を返上し、もうひと花咲かせたいと意気込んでいることが原委員長の説明からも伝わってくる。日本が招待されている来夏の南米選手権は、手腕をアピールできるかっこうの舞台になるだろう。
ヘッドコーチ、GKコーチ、フィジカルコーチに個人マネジャーの4人を入閣させたい意向を伝えている新監督は、スタッフ全員が単身赴任も厭わないとも明言。住居も同じ場所を要望し、いつでもスタッフ会議などを開催できる環境を条件に挙げているという。
舞台裏はどうであれ、新監督の高いモチベーションが日本の強化につながれば大歓迎だ。
「組織的な守備をさらにワンランク、相手コートに近づけたところで攻撃をいかに仕掛けていって点を取るか。そこで彼の経験、あるいは組織力にプラスしてグラウンドを広く使った大胆なサッカーを取り入れてくれれば、日本のレベルがもうひとつ上にいけるんじゃないか」
難航を重ねた末にようやく終結した次期日本代表監督問題に原委員長は安どの表情を浮かべ、最初から候補者のリストに入っていたというザッケローニ氏に課題でもある決定力不足解消への期待を託した。もっとも、新監督の「所信表明」がやや拍子抜けだったのも事実だ。
「私のイメージはおそらく攻撃、非常にオープンに攻める監督のイメージかもしれないが、自分自身ではバランスのあるサッカーを、バランスのあるチームを作ることができる監督だと思っている。代表の場合も守備も攻撃もバランスのとれたチームになるようにしていきたい」
今後は9月2日からの代表合宿と親善試合2試合を視察し、就労ビザ申請のために一時帰国。10月8日に予定されているアルゼンチン戦から本格的なさい配をふるう。
システムも思い入れの強い3‐4‐3にこだわることなく、「相手や試合の流れに応じていろいろなシステムをやらないといけない」と柔軟な姿勢を見せている。
「いつかこの冒険が終わる時には『ザッケローニのサッカー、ザッケローニのジャパン、ザッケローニのサムライは非常にいいプレーを見せた』といういい思い出を残したい」
ひな壇では常に穏やかな表情を浮かべ、静かな語り口が印象的だった。ヨーロッパ在住のジャーナリストは最後に「非常に温厚で物静かな性格がラテン系のイタリアではなかなか受け入れられなかったけど、日本には合うかもしれないですね」とも付け加えた。
新監督は大好きな言葉、日本流で言えば座右の銘に「バランス」を掲げた。紆余曲折の末に、ようやく新たなスタートラインに立つことができた日本。カルチョの国イタリアから初めて迎えることになった指揮官の手腕のほどを、まずはしっかりと拝見したい。
2010年8月31日 23:23|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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