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相次ぐW杯戦士の日本代表引退宣言に覚える違和感 by 藤江直人

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■J1第22節
川崎フロンターレ[勝ち点35] 1‐3(前半1‐1) 横浜F・マリノス[勝ち点37]
[9月11日午後4時キックオフ@等々力陸上競技場/観衆2万2173人]
横浜F・マリノスが一気に調子を上げてきた。
敵地・等々力陸上競技場で行われた川崎フロンターレとの「神奈川ダービー」で3対1の逆転勝利を収め、実に1年9か月ぶりとなる3連勝を達成。フロンターレを抜いて6位に浮上し、ガンバ大阪、鹿島アントラーズ、清水エスパルスの上位陣を猛追している。
「動きの質と運動量で相手を上回っているからのう」
酷暑の条件下で行われてきた8月以降の成績を見ても5勝1敗。木村和司監督も思わずご満悦の表情を浮かべるチームをけん引しているのがMF中村俊輔だ。
パスを出した後に相手ゴール前へ猛然とスプリントする姿ひとつを見ても、どん底状態だったW杯直前とは比較にならないほどコンディションが上がっていることが分かる。
効果的なサイドチェンジを仕掛けられる視野の広さやパスの精度の高さ、卓越したボールキープ力は健在。相手GKの好守に阻まれてゴールこそならなかったが、2度訪れたFKの場面でも左足から放たれた美しいボールの軌跡がスタンドを沸かせた。
圧巻は前半ロスタイム。フロンターレのファウルで試合が止まった直後だった。ゆっくりとボールに近づくDF松田直樹に対して、俊輔が大声でパスを要求した。
時間はほとんど残っていない。まさにラストワンプレー。1点をリードするフロンターレの選手全員が、いわゆるエアポケットに陥っていることに気がついたのか。
松田からのパスを受けると素早く反転し、左前方に走り込んでいたFW山瀬功治へ正確無比なラストパスを通す。同点ゴールがネットを揺らした瞬間、木村監督は勝利を確信した。
「早い時間帯に失点したけど、フロンターレはかなり疲労していた。かわいそうと言うか、大変だよね。ウチは前半の終わりに取れたことが大きい。ボールを動かしていけば必ず穴ができていた。まあ(まだ暑さが残る)4時のキックオフというのも、よく理由が分からんよね」
ナビスコカップ準々決勝から中2日。決して万全ではないコンディションの相手が、前半の最後にのぞかせた一瞬のスキを見逃さない「戦術眼」が勝負を決したと言ってもいい。
フロンターレに刻まれた精神的ショックが、わずか15分間のハーフタイムで解消するはずがない。勢いそのままに後半4分、18分とMF兵藤慎剛が連続ゴール。ダメ押しの3点目も、俊輔から右サイドを抜け出した山瀬へのスルーパスが起点になっていた。
「自分がボールを持った瞬間に(山瀬)功治がいい動き出しをしてくれるからね。コンディションは普通。8月でだいぶ絞られたからね。食事と睡眠をしっかりとって、もうちょっと練習できそうなところでも切り上げたりして。もう夏も終わり。もっと質を上げていかないと」
好調なチーム状態にじょう舌な俊輔だが、日本代表の件になると口数が激減する。
すでにW杯南アフリカ大会が終わると同時に日本代表からの引退を表明。その後も決意が覆っていないことは、9月の親善試合では空位となっていた背番号10の後継者へ「自分の色に染めればいい」とエールを送っていることからでも分かる。
実は日本サッカー協会の原博実・強化担当技術委員長が監督代行を務めた9月の2試合へ向けて、俊輔の代表招集に関してマリノス側に打診があったという。あくまでも心境を確認するレベルだったとされるが、俊輔の決意が揺らぐことはなかった。
まだアルベルト・ザッケローニ氏の名前すら報道されていなかった8月某日。W杯メンバーをベースに、技術委員会主導で選出されることが濃厚になっていた日本代表メンバーに俊輔が選ばれたらどうなるのか。仮定の問いにマリノスの下條佳明GMはこう答えている。
「我々は説得する立場にはないし、基本は本人がどう考えるかにある。確かにもう若くはないかもしれないけど、あえて言えばまだ戦える選手だと思っている。できるだけ前向きな姿勢で長くプレーしてほしいし、もし選ばれたら自身の成長のためにもやってほしいとは思っている。ファンに夢を与えることができる立場の選手でもあるわけだからね」
かつて日本代表で10番を背負った木村監督も同じ思いを抱いている。
「あまり代表引退とか自分からは言う必要はない、とは俊輔に言ったんだけどね」
それだけ日本代表とは選手にとって「聖域」とも呼べる特別な場所であり、誰もが望んでも選ばれるわけでもない。今年で43歳になった最年長Jリーガー、FWカズ(横浜FC)も「現役でプレーする限りは代表を目指す」と公言してはばからない。
GK楢崎正剛も代表引退を表明したが、こうした言動には大いなる違和感を覚える。メンバーを選ぶのはあくまでも代表監督の専権事項であり、選手自らが言及するのは「衰えて代表に呼ばれなくなる前に自ら手を打った」とうがった見方をされてもおかしくない。
サッカー人生の集大成として臨んだはずの2度目のW杯は、4月に痛めた左足首などの回復が長引いたこともあり、途中出場したオランダ戦でのわずか26分間のプレーに終わった。
PK戦の末に苦杯をなめたパラグアイ戦後のミックスゾーンでは、「すべて実力のうち」と目の前の現実を受け入れた上でこんな言葉を残したという。
「4年後? いや、もういい。9月に再始動? もういい。こういう大会でずっとベンチだったのは初めて。若いわけじゃないから辛い。辛いのと悔しいのしか残らない」
31歳の稲本潤一や30歳の中村憲剛も出番は少なかったが、決して弱音は吐いていない。
W杯でチームキャプテンを務めたGK川口能活も、38歳で迎えるブラジルW杯へ向けて「もちろん出場を目指す」と宣言している。その真っすぐな姿勢は「そう簡単には自分を乗り越えさせない」「まだまだ自分も成長できる」というプロフェッショナルの矜持を感じさせる。
厳しい言い方になるが、4年に一度の大舞台にピークを合わせられなかったのは選手の責任となる。俊輔は4年前のドイツ大会でも直前に崩した体調が最後まで回復しなかった。こうした現実から逃げ、挙げ句に「若いわけじゃないから辛い」と言っているようでは、さらなる成長は望めないのではないか。年齢的にクラブとの両立が厳しくなってくることは理解できるが、可能性がある限りは、代表監督から期待される限りはチャレンジするべきではないのか。
14日に全国書店で発売される『論スポ』第8号の取材で評論家の風間八宏氏に話をうかがった際に、今回のW杯で完全燃焼できた選手として「おそらくは中澤佑二、闘莉王、阿部勇樹の3人くらいしか挙げられないのではないか」という結論に達した。
大会直前になってまず守備ありきの戦術に転換した結果であり、必然的に攻撃陣、特に弾き出される形で主役から転落させられた俊輔が抱えたストレスの大きさは想像に難くない。
俊輔と同じ1978年生まれの中澤も、4年前のドイツ大会後には惨敗による燃え尽き症候群もあって8か月ほど代表から距離を置いた。その中澤が今回は最も代表に意欲的な選手の一人であるわけだから、いかにW杯が選手の心技体に大きな影響を及ぼすかが分かる。
しかし、俊輔ほど豊富な経験を誇るベテランであれば、それらを日本の財産として後に続く若手に伝えていくことも義務となるのではないか。存在感が際立ったフロンターレ戦を見ていて、そうした思いを抱かざるを得なかった。ガンバ大阪の期待の成長株、18歳の宇佐美貴史は「自分の中ではダントツでナンバーワン」といまでも俊輔に畏敬の念を抱いている。
マリノスは18日の次節で首位の名古屋グランパスと敵地で対戦する。前回は0対2と完敗を喫しただけに、俊輔も「注意するのは闘莉王の頭」と軽妙なジョークの中に早くも闘志をのぞかせる。その視線はマリノスだけに向けられているが、ザッケローニ氏の目にはどう映るのか。就労ビザ取得後の17日に再来日する新監督は、注目の尾張決戦を視察する予定だ。
2010年9月12日 13:40|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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