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高木兄弟の輝きが吹き飛ばす東京ヴェルディの憂鬱 by 藤江直人

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■J2第28節
東京ヴェルディ[勝ち点43] 4‐0(前半2‐0) ギラヴァンツ北九州[勝ち点14]
[9月26日午後5時キックオフ@味の素スタジアム/観衆4052人]
キックオフまで30分を切っているというのに、京王線の飛田給駅北口ロータリーから味の素スタジアムへと続く一本道は驚くほどに閑散としている。
Jリーグ創成期に王者として君臨したヴェルディ川崎から東京ヴェルディに呼称を変更し、半ば強引に等々力陸上競技場からホームスタジアムを移転し、2度目のJ2に甘んじて2シーズン目となる今では決して珍しくなくなった光景。相手がJ2最下位を独走するギラヴァンツ北九州ということを差し引いても、4000人弱しか入らないスタンドはあまりに寂しい。
しかし、緑の軍団がピッチの上で展開したサッカーはスペクタクルとスピード、何よりも創造力に満ちあふれていた。まるで往年のスター軍団を彷彿とさせるかのように。
新生ヴェルディの主役を務めたのは高木俊幸と善朗の「兄弟ツートップ」だった。
試合開始からわずか3分。まずは17歳の弟・善朗が魅せた。自らが突っ掛けて獲得したフリーキック。ゴールほぼ中央。距離にして約18メートル。右足から放たれたボールは6枚のカベをものともせず、弧を描きながらゴール左隅に鮮やかに吸い込まれた。
「あの時間帯で1点を取れたことは本当に大きかった」
はにかむ弟を見て、ひとつ違いの兄・俊幸が燃えないはずがない。34分にゴール前の競り合いを強引に制し、今月だけで3度目となるアベックゴールを決めたのはまだ序章だった。
後半3分。またも善朗が突っ掛けて獲得したフリーキック。ゴールのほぼ正面ながら、距離は約32メートルもある。それでも、俊幸に迷いはなかった。無回転のままバーを越えるかと思われた軌道は、ゴール直前で急降下。相手GKの手をかすめてゴールネットを揺らした。
「まったく回転せずにそのまま伸びていったので『早く落ちろよ』と思って見ていたら、最初は左に曲がって、次に右に行って、それから落ちましたね(笑)」
ファウルを受けた箇所の治療をピッチ外で受けていた善朗が「外れると思っていたのに」と目を丸くした驚弾。コーナーキックを託される善朗は34分のDF土屋征夫のダメ押しゴールもアシストし、兄弟で全得点に絡む獅子奮迅の活躍でチームを快勝に導いた。
元プロ野球選手で解説者の高木豊氏の長男と次男という血筋もあるが、それ以上に2人は類稀なサッカーセンスとテクニックを兼ね備えた逸材として早くから注目されていた。
その原点は国立競技場にある。父に連れられて、当時隆盛を極めていたヴェルディ戦を観戦したのは1990年代の半ば。対戦相手などは「はっきりとは覚えていない」と声をそろえるが、俊幸はかろうじて「ヴェルディのレプリカユニホームを買った」と記憶している。
中学進学を前に本格的にサッカーの道でプロを目指そうと決意した時に、ヴェルディの「緑のユニホーム」を選んだことは決して偶然ではなかったわけだ。
俊幸は今シーズンからトップチームへ昇格を果たし、善朗はユース所属のままトップの試合に出場できる2種登録選手として帯同。兄の背中を追うように9月にプロ契約を結んだ。
1メートル70、63キロの兄に対し、弟も1メートル69、64キロとサイズはほとんど変わらない。「フリーキックは遠い距離なら俊幸。ちょっと近めだと僕が蹴る感じです」と照れ笑いする善朗に代わって、俊幸が2人のFWとしての違いをより詳細に説明してくれた。
「僕がどんどんタテに抜け出していって、弟がボールを持ってタメを作る。いいタテ関係を築けているし、チームにとってもいいバランスが生まれていると思う」
シーズンも4分の3を終え、上位3チームが切符を得るJ1昇格争いも混沌としてきた。
首位の柏レイソル、2位のヴァンフォーレ甲府が快調に勝ち点を伸ばす一方で、3位争いを続けていたアビスパ福岡とジェフ千葉がやや失速。直近の4試合で合計8ゴールと大爆発中の高木兄弟にけん引されるように、ヴェルディがアビスパに勝ち点6差まで肉迫してきた。
前経営陣のままでは資金繰りがショートすると見なされ、ヴェルディのほぼ全株式が株式会社ジェイリーグエンタープライズに譲渡されたのは今年6月下旬。Jリーグ主導でクラブ経営が再建される異例の形態がとられることになったが、9月15日に行われた月例のJ2実行委員会ではヴェルディのJ1昇格資格そのものを疑問視する声が出てきたという。
9月21日のJリーグ理事会でもその件が審議された。大東和美チェアマンが言う。
「Jリーグから取締役を派遣し、実質的なJリーグ預かりのチームとなったことで、ヴェルディが今シーズンの3位以内に入ったとしても常識的にはJ1への昇格資格はなくなっていると見るべきなのではないのか、という指摘を実行委員会で受けました。来月に行われるJ1の実行委員会における見解を得た上で、10月19日のJリーグ理事会で結論を出したい」
現在はJリーグの羽生英之事務局長が今シーズン限りの超法規的措置としてヴェルディの社長を務め、新しいオーナーを探している。しかし、状況は決して楽観視できない。
本来ならば9月の理事会までにいわゆる「ホワイトナイト」を探す青写真が描かれていた。しかしながら、昨今の経済不況もあって交渉は難航。羽生社長もこの点は認めている。
「興味を持ってくれるところは多いが、一方で『何で今年のお金をウチが埋めるんだ』という話にもなる。来年の日程作成を考えれば、遅くとも11月までには間に合わせたい」
年内いっぱいの経営を安定させる目的で、ヴェルディは金融機関から約4億円を借り入れている。交渉先が「今年のお金」と指摘するのはこの部分であり、一方でJリーグの内規には「債務超過のチームはJ1には昇格できない」とある。来シーズンのJ1昇格はおろか、チームの存続そのものに関しても先行きが不透明と言っても決して過言ではない。
それでも、ヴェルディのピッチレベルからは動揺の類は伝わってこない。
昨年のこの時期は日本テレビが経営から撤退し、読売クラブ時代のOBが発足させた持ち株会社が経営母体としてふさわしいか否かで議論が交わされた。最終的には11月のJリーグ理事会で存続が承認されたが、そこに至るまでの過程でチームは失速を余儀なくされた。
「今年はトップが首脳陣にしっかりと現状と今後についての連絡を密にして、それを伝えられたベテラン選手たちがうまく若手に説明してくれている」
チーム関係者の証言を裏付けるように、ベンチ入りメンバーで最年少の善朗は「チームの雰囲気がすごくいいので、そういうことを気にすることなく試合に集中できる」と胸を張った。
ギラヴァンツ戦のスタメンには、俊幸や善朗以外にも4人の育成組織出身選手がスタメンに名前を連ねた。サブも7人中で3人が育成組織出身で、そのうち2人がピッチに立った。J1のガンバ大阪と並んで、選手育成で最も成功を収めてきたクラブと言ってもいいだろう。
アマチュア全盛だった1969年に読売クラブとして創設され、日本のスポーツクラブの先駆け的な存在となって以来、最も重視されてきたのがこの育成組織だ。読売新聞社が1998年限りで経営から撤退しても、「どうせ親会社が赤字を補填してくれる」と採算度外視の経営が繰り返された日本テレビ時代も、最終的には7か月あまりで経営権を剥奪された東京ヴェルディホールディング時代でも、育成組織だけはチームの「聖域」として予算が保護されてきた。
セリエAカターニャに所属するFW森本貴幸もヴェルディの育成組織出身。今夏にオランダに遠征したJリーグのU‐14選抜が国際ユース大会で準優勝したが、アーセナルやチェルシーの予備軍の中で大会MVPに輝いたMF中野雅臣もヴェルディのジュニアユース所属。このチームでは俊幸と善朗の弟で、最も将来を嘱望される14歳の大輔も日々精進している。
次世代を担う金の卵たちを長年にわたって育て、今現在も育てている環境はヴェルディだけではなく、日本サッカー界全体にとってもかけがえのない財産でもある。だからこそ、企業の身勝手な論理でチームもろとも消滅させることは到底許されることではない。その点を羽生社長にぶつけると、意を決したような表情で「もちろんです」と力を込めた。
大東チェアマンも「そうしたヴェルディの価値に対して投資してくれるかどうか」とホワイトナイト候補には大局的な視点で判断してほしいと期待をかけている。
もっとも、育成組織のみならず、順位を5位にまで上げてきたトップチームにも将来的な魅力が凝縮されている。ダイレクトやワンタッチのパスを駆使したリズミカルな攻撃。しかも、ヨコへの「つなぎ」よりはるかにタテへの「スイッチ」を入れるパスの割合が多い。最後はフィニッシュで終わる意識の高さは、実に9本のシュートを放った俊幸の姿勢が物語っている。
育成組織出身で、日本代表でも不動の左サイドバックを務めた育成スーパーバイザーの都並敏史氏も「ヴェルディっぽくなってきたよね」とスタンドで目を細めていたほどだ。
復活。あるいは蘇生。その象徴的な存在である高木兄弟が声を弾ませる。
善朗「ヴェルディをJ1に上げることが育成組織にいる時からの夢だし、それを果たすことが育ててもらった恩返しになる。そのためにも、自分がもっと点を取りたい」
俊幸「今日の試合がスタンダード。強いヴェルディの時は、こういう試合をすることが当たり前だった。トップで結果を出すことで、ますます愛着がわいてきました」
11月にはジェフ、アビスパとの直接対決も控える。不安もストレスも雑念もない。まさに一戦ごとに成長しているヴェルディが、J2戦線で台風の目に躍り出たと言ってもいいだろう。
ちなみに、3度目の兄弟アベックゴールは山瀬功治・幸宏を抜くJ最多記録になるという。
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2010年9月27日 03:24|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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