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衰えない日本代表への憧憬。GK川口能活の熱い魂 by 藤江直人

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■ナビスコカップ準決勝第1戦
ジュビロ磐田[1敗] 0‐1(前半0‐0) 川崎フロンターレ[1勝]
[9月29日午後7時キックオフ@ヤマハスタジアム/観衆1万0353人]
勝負に勝って試合に負けた、と言ってもいいのではないか。
両チームともに無得点で迎えた後半5分だった。川崎フロンターレのDF菊地光将がヘディングで必死にクリアしたボールが、最前線のFW黒津勝の足元に入る。攻勢から守勢に転じた直後の、まさに予期せぬ展開だったためか。ジュビロ磐田のマークは誰もいない。
慌ててMF上田康太がスライディングタックルを試みるが、ボールはピンボールのように両者に弾かれ、再び前へこぼれる。推進力がついた黒津が相手ゴールをはっきりと視界にとらえる。ジュビロのGK川口能活の選択肢はひとつしか残されていなかった。
背番号1がペナルティーエリアを飛び出して猛然とダッシュする。黒津の動きを見極め、ファウルを犯さないように細心の注意を払いながらスライディングを仕掛ける。
懸命に伸ばした左足が一度はボールをとらえたが、再び黒津の体に当たって川口の後方へ転がっていく。黒津の右手に当たったようにも見えた微妙なプレーだったが、西村雄一主審はホイッスルを吹かない。結果的に勝負を決するゴールが静かにネットを揺らした。
川口「アンラッキーでしたね。難しいボールでしたし、あれが精いっぱいの対処。勝ちたかったけど、とりあえず1試合のうちの前半が終わったと考えれば悪くない」
前半だけで3度のビッグセーブでゴールマウスを死守した。湘南ベルマーレ、FC東京、京都サンガとリーグ戦で3連勝を飾って迎えた準決勝。J1屈指の攻撃力を誇るフロンターレが相手だったことが川口の闘志に火をつけ、集中力を極限にまで高め、ゾーンへと導いたのか。
川口「上位のチームとやった方がチームも僕も燃えるみたいですね。僕自身も(今日は)守備機会が増えるだろうし、自分の能力を発揮できると思っていた。立ち上がりから集中していたし、相手にスキを与えないプレーができていたんですけどね。個人的にも、そしてチームとしても手応えを感じた一戦。だからこそ、ゼロに抑えられなかったことは悔しい」
スタンドには日本代表のアルベルト・ザッケローニ新監督が視察に訪れていた。
注目の初陣となる10月8日のアルゼンチン戦、12日の韓国戦に臨む日本代表は今日30日に発表される。現役選手である以上、イタリア人指揮官の視線が気にならないはずがない。8月で35歳になった大ベテランは、代表への変わらぬ思いを素直に口にした。
川口「もちろんこれからも(代表を)狙っていきます。とにかく、僕は自分のプレーを普通に、しっかりとやるだけ。それも単発ではなく、ああいうパフォーマンスを何試合も続けていかないといけない。チームの結果も伴わないといけないので」
MF中村俊輔に続いて、7日のグアテマラ戦後には長く正GKの座を争ってきたひとつ年下の楢崎正剛が日本代表からの引退を表明した。ライバルの涙の決断に敬意を表しつつも、川口は迷うことなく「僕は4年後のブラジルW杯を目指します」と公言している。
人呼んで「炎の守護神」を駆り立てるもの。それは貪欲なまでの向上心だ。
川口「僕にはまだまだ足りないところがたくさんありますから」
発売中の『論スポ』の取材で、悪評名高い『ジャブラニ』についての使用前&使用後の感想を数人のJリーガーに聞いた。川口もその一人だったが、返ってきたのは意外な言葉だった。
川口「ブレ球という面に関しては、前回のW杯ドイツ大会からの主流なので、それほど驚くことではないんですけど。問題はキックの時ですね。思い切り蹴るとどうしてもブレたり、伸びたりしてしまう。僕は守備から攻撃への切り替えのところで勝負するキーパーですから。キックに関しては、手なずけるためにまだまだ試行錯誤が続くと思います」
W杯では各国のGKがブレ球対策に頭を悩まていたが、川口はブレ球を超えた先の次なるハードルにすでに照準を定めていた。超えるべき壁が高いからこそ燃える。理想との差を詰めればおのずと代表との距離も遠ざからない。そう信じているからこそ自然体でいられる。
後半39分。相手のCKをキャッチした川口から大きなチャンスが生まれた。
守護神の右足から敵陣の中央にいたMF菅沼実の足元へ一直線に伸びた正確無比なパント。右サイドのMF西紀寛、FWジウシーニョと渡ったボールはゴールという結果こそ生まなかったが、常に攻撃の起点たることを意識している男の真骨頂が垣間見えた瞬間だった。
出番が回ってくる可能性が極端に低かった第3GKとして、まさにサプライズで選出された南アフリカW杯。川口はキャプテンとして選手だけのミーティング開催を呼び掛けて回るなど、自信を失いかけていたチームを闘う集団にまとめあげるための雰囲気作りに尽力した。
裏役に徹する姿に選手たちは胸を打たれ、日本代表の岡田武史前監督も賛辞を惜しまなかったが、川口本人はアスリートとしての矜持を持ち合わせるのも忘れてはいなかった。
右足頸骨骨折で全治6か月の大けがを負ったのは昨年9月。完治が長引いたが、南アフリカの地で黙々とコンディションを上げ、帰国から約1か月後の8月7日には満を持してJ1の舞台に復帰した。同時にチームも上昇気流に乗り、J2への降格圏内から完全に脱出。ナビスコカップでもベスト4に駒を進め、05年の自身加入後では初、ジュビロ自体としても04年1月の天皇杯以来となるタイトル獲得が見える位置にまでけん引してきた。
かつては鹿島アントラーズと2強時代を形成したジュビロだが、最後のリーグ優勝は02年にまでさかのぼる。タイトル獲得を経験している主力も西やFW前田遼一、MF成岡翔らごく数人だけ。黄金時代を担ったFW中山雅史やMF藤田俊哉らは他チームへ去っていった。
川口「今の僕たちには勝つことが必要なんです。タイトルとプレッシャーがかかった試合を経験すれば必ず成長できる。毎年11月3日に行われるナビスコの決勝は、ある意味でステータスになっている。いつもテレビで見てきて悔しい思いをしてきた。今年こそは何がなんでも決勝に行って、僕が後方から(タイトル獲得への)お膳立てをしたいんです」
アウェーゴール制を考えれば、初戦をホームで落としたことは痛恨だ。それでも、川口は絶対に下を向かない。黒星の中にも次につながる材料を見つけようと前を見据える。この試合で言えば、後半だけでシュート数で12対3と相手を圧倒した攻撃陣となるだろう。
川口「次は最低でも2点を取らないといけない。相手の攻撃もケアしないといけないし、難しい試合になるのは間違いないけど、だからこそやりがいがある。僕は絶対にゼロで抑えます。全力で開き直ってやるしかないでしょう。僕たちには失うものは何もありませんから」
穏やかで抑揚の効いた口調の中に、往年の熱い面影が何度も見え隠れする。
試合終了の整列が解けると、川口はおもむろに西村主審と言葉を交わした。
川口「朴柱昊がけがをしたシーンが、かなり危険なプレーだと思ったので」
前半6分の接触プレーでDF朴が左足の腓骨を骨折し、退場を余儀なくされたシーンで、相手選手にイエローカードが出されなかったことをさりげなく確認していたのだ。まさにチームを陰日なたで支えるいぶし吟の存在。もっとも、試合に負けたこともあって照れくさかったのか。川口は手の平を上にするポーズを繰り返しながら、あることを注文するのも忘れなかった。
川口「あまりこうしないで(持ち上げないで)ください。まだまだ辛口でお願いしますよ」
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2010年9月30日 04:27|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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