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横浜ベイスターズ売却破談とTBSに求められる矜持 by 藤江直人
どんなに反論しようが、売名行為だったというそしりは免れないだろう。
TBSホールディングスと住設機器最大手の住生活グループとの間で進められていた、プロ野球横浜ベイスターズの売却問題が急転、破談となった一件。27日に都内で会見した住生活グループ側は「売名行為だったら手を挙げただけで済んだ」と報道陣からの指摘に真っ向から異を唱えたが、残念ながらその言葉に説得力は備わっていない。
今月5日に社内に買収プロジェクトチームを発足させ、5人の担当社員で「全力を挙げて取り組んできたが、諸条件が合わなかった」と言われても空しく聞こえるばかりだ。
週刊誌報道によって今回の買収劇が発覚したのが今月1日。以来、連日のように新聞紙上などで住生活グループの名前や統一ブランド「LIXIL(リクシル)」が報じられた。
傘下のトステムやINAXは知られていても住生活グループやリクシルなどは知らない、という構図が大きく様変わりしたことは言うまでもない。経費ゼロでこれ以上はない広告宣伝を打てたわけで、しかも破談によって住生活グループが被ったマイナス要素は皆無。それどころか、球団保有によるリスクがなくなったことがプラス材料となり、株価が前日終値比で一時は74円高となる1605円まで急騰した。笑いが止まらない、とはこのことを言うのだろう。
住生活グループの潮田洋一郎会長自らが、球団保有の最大の目的として「リクシルブランドの認知度を効果的に高められる」と語っていた今回の買収騒動。住生活グループ側はリクシルをトステムやINAXのレベルにまで高めるには最大で500億円の広告宣伝費が必要と試算。プロ野球に参入することで、その分の宣伝効果を2年もあれば回収できると踏んでいた。
つまり、目的が十二分に達成されれば再び球団を手放す可能性が極めて高かった、ということになる。監督を含めた来シーズンの球団人事に「手を触れないでほしい」と異例とも言える要望を出していたのも、短期間で効果を挙げるためには「強いチーム」であることが不可欠であり、現在の尾花高夫監督体制では難しいと判断したからに他ならない。
その意味では、プロ野球球団保有を単なるビジネスの一環と見なしていた住生活グループとの破談は、むしろ歓迎すべき事態でもある。
もちろん他の11球団のオーナー企業もビジネスとしてとらえてはいるのだろうが、ここまであからさまに費用対効果が説かれたことはない。一連の潮田会長の発言に違和感を通り越して嫌悪感すら覚えていたが、今後の問題は「お荷物」というネガティブなイメージだけを植え付けられ、取り残されてしまった感のある横浜ベイスターズに集約されてくる。
TBSホールディングス側は「金額ではなく球団にとって望ましい環境作りが最優先事項だった」と明言。破談の背景に本拠地の移転を巡る綱引きがあったことをほのめかしている。
一連の買収騒動の渦中で、1978年の開場以来続いている横浜ベイスターズと株式会社横浜スタジアムの「いびつな関係」があらためてクローズアップされた。
現在の契約では、入場料収入総額の25パーセントとスタジアム内における広告および飲食料などを含めた物販収入がすべて横浜スタジアム側に収められることになっている。
横浜ベイスターズの加地隆雄球団社長もこの関係を何とか是正したいと明言。持ち株会社を設立し、その傘下に球団とスタジアムを置く方策を含めて検討を重ねてきたが、メンテナンスなどに多大な経費がかかると主張する横浜スタジアム側は頑なに譲らないという。
新しい本拠地として住生活グループ側が念頭に置いていたのは、官民一体となってプロ野球球団の誘致に積極的な姿勢を示している新潟県など。本拠地を移転することで「いびつな関係」は一気に解消できるが、TBSホールディングス側も人口約368万人を抱える大都市・横浜にはまだまだ巨大なビジネスチャンスが眠っていると判断したのだろう。
大手広告代理店の電通横浜支社に長く勤務した実績と横浜政財界への人脈を見込まれて、昨年10月に就任した加地社長も「横浜というブランドを活かさない手はない」と強調していた。それだけに胸をなでおろしているはずだが、一方で問題は山積されている。
野球協約では、球団オーナーを変更する場合、その前年の11月30日までにプロ野球実行委員会とオーナー会議で承認を受けることが必要と定められている。
今年の実行委員会は11月9日、オーナー会議は同18日に開催される。当然のことながら、新たな買収先を探す時間的な余裕はない。TBSホールディングス側も会見で「引き続きオーナー企業としての責任を果たす」と球団保有続行を明言したが、放送事業における未曾有の不振が続く中、年間20億円とも言われる赤字を抱える横浜ベイスターズの経営を投げ出したい旨を一度は日本中に知らしめたのだ。額面通りに受け取ることは到底できない。
来シーズン途中には球団売却問題が必ず再燃するだろう。
実際に会見でTBSホールディングス側は「球団に望ましい環境が得られるという前提でいい話があれば考える」と今後へ向けて含みを持たせているし、横浜市中区に本社を置く家電量販店のノジマは、買収に積極的な姿勢を今もなお崩していない。
いわば先行きが極めて不透明な状況であることに変わりはなく、国内フリーエージェント権を取得している内川聖一、村田修一の両主軸が愛想を尽かし、退団・移籍という選択を下しても何ら不思議ではない。今日28日のドラフト会議で指名される選手の心境も複雑なはずだ。
TBSホールディングスに「オーナー企業としての責任」が本当にあるのならば、株式会社横浜スタジアムとの関係改善を含めた一連の問題を球団サイドに丸投げせずに、一丸となって解決することで来たる売却へ向けた環境を整えないといけない。
球団が横浜スタジアムに支払う金額は年間約8億円と言われている。つまり、両者の「いびつな関係」が解消されても球団の赤字は10億円以上も残る。悲願の日本一になった1998年は連日のようにスタンドが満員となり、入場料収入も潤った。そうした歴史を考えれば、3年連続の最下位、特に今シーズンは95敗も喫したチームを徹底強化することは急務となる。
チームは31日から鹿児島・奄美大島で秋季キャンプに入る。
住生活グループとの破談を受けて正式に続投が決まった尾花監督だが、3年契約の2年目を迎えるとはいえ、来シーズンも開幕から低迷するようでは球団側も非情な決断を下さなければならない。そうした場合のリスクマネジメントに備えているのか。内川、村田との残留交渉を含め、凍結されていた戦力補強や組閣などの人事も早急に動き出さないといけない。
住生活グループに振り回された感だけが残った今回の騒動だが、災いを転じて福となすことができるかどうか。日本に12社しかないプロ野球球団のオーナー企業としての「矜持」がTBSにあるのか否かが、再び問われようとしている。
2010年10月28日 07:57|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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