Home > 本日の論! > ボイコット騒動の収束とキングKAZUが見せた存在感  by 藤江直人

ボイコット騒動の収束とキングKAZUが見せた存在感  by 藤江直人

ボイコット騒動の収束とキングKAZUが見せた存在感  by  藤江直人

☆☆☆論スポ最新号の購入はこちらをクリックしてください!☆☆☆


 存在感が違う。その口から発せられる言葉は重く、説得力に満ちていた。
 都内で22日に行われた日本プロサッカー選手会(JPFA)主催のシンポジウム。最後に急きょ設けられた日本代表選手の待遇改善要求に対する記者会見で、現役最年長プレーヤーのFW三浦知良(横浜FC)が新聞紙上などで飛び交う代表戦のボイコット回避を提言した。
カズ「個人的にはストライキやボイコットはしてはいけないと思っている。僕たちは何があってもプレーすることをやめてはいけない。代表の試合は今でも5万、6万のファンが見にくる。みんなが待っているし、期待されているからね」


 ひな壇の中央に座ったJPFAの藤田俊哉会長(ロアッソ熊本)も、ボイコットという言葉が与えるネガティブな影響にむしろ困惑している心情を打ち明けた。
「今回の件で多くのファンやサポーターに迷惑をかけている。今までの経緯の中でボイコットやストライキを考えたことはない。僕らは労働組合ではないので現実的にできるはずがないし、ボイコットという言葉ありきで交渉が進むのは本意ではない。日本協会とは真剣に話し合っていくことを求めたいし、ボイコットという言葉を独り歩きさせるつもりはありません」
 今回の一件でJPFAとして初めて臨む会見の場。打ち出されたのは対話路線だった。


 ボイコットという言葉がクローズアップされた背景には、JPFAの執行役員を務める清岡哲朗氏が20日に報道陣に対して状況を説明した中で言及した一件がある。
 藤田会長やカズら5人が出席した会見の進行を務めた清岡氏は「しかるべき措置を取ると申し上げただけ」と言葉を濁し、「現状では選手の言う通りです」と一気に矛先を収めた。
 関係者によれば、清岡氏は20日の説明で「勢いもあって言ってしまったらしい」という。ボイコットという言葉の持つ重みを考えれば、必然的に翌日の新聞各紙に大々的に報じられる。それを見た藤田会長が誰よりも驚いたという後日談まで伝わってきた。

 
 もちろん、今でも日本代表というチームを愛し、誇りを持っているからこそ、カズは置かれている現状に対して疑問を投げかけることも忘れない。
カズ「個人的な意見を言わせてもらえれば、僕はブラジルでもプレーした経験もあるし、だからこそ代表チームというのはその国のすべての中でトップであってほしい。金銭面でも、環境面でも。お金が低いからといって選手のモチベーションがどうこうというのはないし、代表は最高の舞台だから、多少のけがを抱えていても無理してでも行く。だから、プロとしてのプライドの問題だよね。きつい日程の中でそれなりのリスクを背負って行くわけだし、人生にもかかわってくる。自分もイタリアでプレーしていた時は、代表から戻ったらサブというのがあったからね」


 カズ自身、先頭に立って日本代表の待遇アップを勝ち取ってきた。 
 1990年9月。ブラジルから鳴り物入りで帰国し、読売クラブ(現東京ヴェルディ)に入団したカズは、北京アジア大会に臨む日本代表にもすぐに招集された。
カズ「その時の報酬はゼロでした。勝利給やボーナスが出たのは91年のキリンカップから。協会の人に『優勝したら50万出してやる』と言わせてね」
 当時はアマチュア時代からプロ時代へのまさに端境期。プロ契約選手が激増する一方で、日本サッカー協会はアマチュア体質から脱却できていなかった。


 果たして、日本代表はブラジルのバスコ・ダ・ガマ、イングランドのトッテナムを連破して初優勝。3ゴールを挙げたカズは、自らのプレーで日本代表の価値を高めた。
カズ「93年までの3年間で状況は劇的に変わった。大会によってW杯はA、アジアカップはB、親善試合はCといったぐあいにランク分けするシステムもできて。でも、この間新聞を見て、18年前と金額がまったく変わっていないことに驚いた。時代の流れに即して代表の価値も変わっていかないと。どの大陸でも、W杯などがかかる試合は国民的行事になっているからね。そのためにもしっかりと話し合って、協会に選手の言い分を伝えていかないといけない」


 1997年8月にも日本協会側と腹を割って話し合った。
 当時はW杯フランス大会出場をかけたアジア最終予選が、それまでの中立地での集中開催からホーム&アウェー方式に急きょ変更され、代表選手は9月からジョホールバルの奇跡で日本中を熱狂させた11月中旬までの長期にわたって拘束されることになった。
カズ「当時のJのクラブは給料を抑える意味もあって、Jの試合への出場給を高額で設定していた。1試合あたり50万から100万くらいが基本だったと思う。代表選手によっては、それこそ500万円以上の差額も出た選手もいたので」


 福島県のJ・ヴィレッジで行われた強化合宿中に、日本協会の担当者と金銭的な補償について徹底的に話し合った。もっとも、当時の加茂周監督が「予選が終わってからにしてほしい」と目の前の試合に集中することを命じられ、交渉は一時中断したという。 
カズ「年が明けて1月になって、結局、あやふやになって終わらされてしまった。現状を先送りにしていてはあの頃と変わらない。クラブ側ももっと日本協会とコミュニケーションをとって、一緒になって改善していかないといけない」
 たとえば代表戦において故障し、その後の所属クラブでの試合で欠場を余儀なくされても、勝利給などに対する金銭補償制度は、現時点でも設けられていない。


 日本サッカー協会、JPFAの双方が弁護士を立てて21日に開始した交渉では、勝利給やボーナスなど報酬の増額と肖像権料の選手への分配の2点が申し入れられた。 
 勝利給は現状が10万円から20万円なのに対し、JPFA側は100万円を要求している。清岡氏はその意図を、FIFAランク26位と日本の29位に最も近く、同じアジアサッカー連盟に所属するオーストラリア代表の情報を開示しながらこう説明する。
「勝利給は相手のFIFAランクによって、50万円から120万円で変動する。カンタス航空のファーストクラスやビジネスクラスで移動し、専用のシェフや栄養士も帯同。オーストラリア協会の収入は60億円。日本協会の3分の1の協会にできて、なぜできないのか」


 今後は日本協会からの返答を待ち、その内容を見極めた上で対策を練る。先週末からの一連の報道で、騒動は一時は拡大の一途をたどったが、カズは前向きに受け止めている。
カズ「今回初めてこうやって訴えたわけで。それまでは小声というかね。僕にも選手会メールが届いていたし、今は自分の意見も言えるシステムになっている。みんながそういう意識を持ってメールを見るようにしていくのも、これからの役目だよね。こういう事態に直面しないと、自分ごとに思えない部分もあるから。僕も21歳の時にブラジルで同じようなことがあって、選手会の会長に自分の意見を伝えた経験がある。その会長がジーコだったからね。オレ、いったい何歳なんだろう(笑)」


 実は、今回のシンポジウムにカズが参加する予定はなかった。直前になって志願する形で連絡が入ったという。その言動が依然として大きな注目を集め、発するコメントが大きな影響を与えることをカズ本人も熟知しているのだろう。
 ボイコットという過激な言葉が独り歩きしていた状況にあえて火消し役を買って出て、豊富な経験を踏まえた「金言」の数々で、強硬路線ではなく、たとえ時間をかけてでも対話を続けていく方向性を、メディアを通してファンに伝えた。39歳の藤田会長も「カズさんが言ってくれるとやはり違う」と感謝の思いを浮かべながら、日本サッカー界の将来を見つめながら決意を新たにしている。


 ひな壇で藤田会長は、左側に座るカズを見ながらこう語った。
「僕らが代表でそれ(勝利給)をもらう、というのは現実的に難しい。でも、日本の将来を考えて、皆さんがいろいろと発言してくれたことは本当に嬉しい。僕らと協会との間に開きがあるのは事実だけど、どこかのタイミングできちんと話し合い、新しい方向へ進む。そのタイミングがまさに今であり、必ずいい解決策が見つかると信じている」
 カズは44歳になる来シーズンも横浜FCでプレーする意思を固めている。
カズ「自分のゴールで喜んでくれるファンがあれだけいる。1試合でも多く出場して、選手としての存在感を示したいよね」


 ブラジルのクラブからも来年5月までの契約をオファーされたが、熟考した上で契約延長を打診されていた横浜FCでプレーすることを決意した。
カズ「ブラジルの方は僕から得るプロパガンダに期待していた。僕をあてにしてくれるのはOKだけど、向こうが思うようにコトが進むのか。向こうの期待に応えられるかという点で不透明だったし、サッカーに集中できる環境を何よりも考えました」
 もっとも、藤田会長から「お互いに代表は難しい」と言われた点が「現役である以上は代表を目指す」と公言してはばからない男の心に引っ掛かったのか。
カズ「次に俊哉(藤田)に会った時は『間違っていました』と言わせたいよね(笑)」
 プロになって25年。キングと呼ばれ続ける理由があらためて分かった一日だった。


☆☆☆論スポ最新号の購入はこちらをクリックしてください!☆☆☆

2010年12月23日 15:20|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

トラックバック(0)

この記事のトラックバックURL: http://sv62.wadax.ne.jp/~sports-times-jp/mt/mt-tb.cgi/465

コメント(0)

コメントを書く