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名将ベンゲルが惚れた逸材。宮市亮が進むいばらの道 by 藤江直人

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■全国高校サッカー選手権大会1回戦
久御山[京都府代表] 4‐2(前半1‐2) 中京大中京[愛知県代表]
[12月31日午後2時10分キックオフ@ニッパツ三ツ沢球技場/観衆8000人]
そのエリアだけ次元が違った。2人の時間軸が異なる、と表現した方がいいかもしれない。
中京大中京の純白のユニホームが形成する3トップの左。背番号9の宮市亮にパスが通るたびにスタンドから歓声が沸きあがるようになるまで、キックオフからそれほど時間を要さなかった。
無理もない。開始早々のワンプレー。パスを受けた宮市が、おもむろに対面のマーク役、右サイドバックの松下千馬の後方に広がるスペースにボールを蹴りだす。
味方は誰もいない。慌てて背走する松下との距離は7メートルくらいか。もっとも、100メートルを10秒台で走破する宮市にとっては無いに等しい差だった。
ほぼ同時にスタートしたはずなのに、2人の距離が瞬く間に詰まっていく。驚異の加速力。問答無用で追い抜かれ、突破を許した松下は、ただただ脱帽するしかなかった。
「ホンマに世界を感じました。しょっぱなは自陣で(宮市を)中に入れるなと言われていたんですけど、タテを空けたらそこを突かれる。それでタテを切ったら、今度は中に入られる。トップスピードに乗られたら困るから、最後はマンマークするしかなかった。しんどかった」
前半35分に初めて松下が宮市からボールを奪うと、スタンドから拍手が起こったほどだ。迎えたハーフタイム。松下は「次元が違いすぎます......」と松本悟監督に漏らしたという。
今大会の注目度ナンバーワン選手。前半で宮市が魅せたプレーの数々は、そうした前評判が決して看板倒れではないことを証明するのに十分すぎるものだった。
前半10分にFW竹野雄輝が叩き込んだ先制点は、中央からのパスを受け、左サイドを疾走した宮市があげた絶妙のクロスから生まれた。同点に追いつかれた後の20分には、今度はFW藤橋弘貴とのワンツーで左サイドを崩してそのまま右足を一閃。ゴールネットを揺らした。
サッカー関係者が集うメーンスタンドの貴賓席では、こんな言葉が飛び交っていたほどだ。
「すごいね、これは。日本の宝だね」
年代別の日本代表における常連だった宮市の注目度が一気に増したのは、9月にさしかかった頃だった。高校最後の夏休みを利用してイングランドのアーセナル、オランダのアヤックスと2つの名門クラブの練習に参加。宮市本人も「自分のウリのひとつ」と自信を抱く、スピードに乗った突破力がアーセナルを率いるアーセン・ベンゲル監督の目に留まったからだ。
「ここがお前の家だ。早く戻ってこい。英語も勉強しておけ」
世界的な名将からこんな声をかけられたという宮市は、18歳になった12月14日に満を持してアーセナルと正式に5年間の長期契約を結んだ。
アーセナルの練習に参加した日々は、今でも宮市の脳裏に鮮明に焼きついている。
宮市「パスサッカーを基本としているので、練習もやはりパス回しに関するものが多かった。プレーや判断のスピードが全然違ったけど、それでも楽しかった。その中で、自分が得意とするドリブルをベンゲル監督に評価してもらえたことはすごく嬉しい」
昨年1月にもブンデスリーガの名門ケルンの練習に参加するなど、もともと海外志向が強かった。鹿島アントラーズや地元の名古屋グランパスをはじめとするJ1勢も当然のように獲得に乗り出したが、ベンゲル監督のラブコールをひっくり返すまでには至らなかった。
ベンゲル監督は快足のサイドアタッカータイプを特に好む傾向がある。かつて所属した元フランス代表のティエリー・アンリにはじまり、現在もイングランド代表のテオ・ウォルコット、ロシア代表のアンドレイ・アルシャビンらがアーセナルで活躍している。
地元ロンドンのメディアは、左サイドから敵陣を崩すそのプレースタイルもあいまって、早くも宮市を「和製クリスティアーノ・ロナウド」として紹介。注目度の大きさをうかがわせているが、新天地に広がっているのは夢だけではない。イギリスのチームに日本人が移籍しようとする時に必ず浮上する、労働許可証の問題が現時点でまだ解消されていないからだ。
EU籍をもたない選手がプレーするために必要なイギリスの労働許可証を取得するには、当該選手が母国の代表チームにおける過去2年間の総試合数の75パーセントに出場していなければならない、という規定がある。あるいは「類稀な才能のある若手選手」と認められた場合に特例で発給された例もあるが、そこでもある程度のA代表歴が必須となる。労働許可証がなければ、リザーブリーグの試合にすら出場することができない。
いずれにも該当しない宮市はチーム合流からほどなくして、おそらくレベルがそれほど高くない他国のリーグに期限付きで移籍し、武者修行を積むことになるだろう。そこでの活躍が評価されてA代表に招集されればいいが、先行きは決して視界良好とは言えない。
宮市の3年先輩にFW伊藤翔がいる。同じ中京大中京高時代にベンゲル監督の眼鏡にかない、アンリになぞえられたことから「和製アンリ」として脚光を浴びた。卒業後はフランスのグルノーブルに移籍し、高校からJクラブを介さずに海外へ移籍した第1号となった。
この日の一戦を観戦していた、あるJクラブの監督経験者は警鐘を鳴らす。
「結局、伊藤はほとんど試合に出られないまま帰国してしまった。宮市のプレーのスケールの大きさ、スピード、テクニックの高さは確かにケタが違うけど、あくまでもここ(高校サッカー)での話。海外に行っても試合に出られないとなると......」
伊藤は昨シーズン限りで2部に降格したグルノーブルを退団。6月に清水エスパルスに移籍したが、けがもあって2試合、計11分間の出場に終わった。
グルノーブル時代を含めたこの4年間で出場したのは、わずか7試合。伸び盛りとされる年代にあって、この数字はもって生まれた才能を摘みかねないリスクをはらむ。
それでも、宮市は海外を選択した。先輩が直面したいばらの道は、もちろん覚悟している。先に待つ不確定要素よりも、18歳の若武者が思い描く「世界で活躍する選手になって、将来的にはバロンドールを獲りたい」という夢の方がはるかに上回っているからに他ならない。
アーセナルの練習に参加して以来、宮市は週4回の英会話の特別レッスンを積んでいる。トップチームの選手たちの旺盛な食欲ぶりに圧倒されると、帰国後からは「今まで以上に意識して食べるようにしている」とどんぶり飯3杯をノルマに課してきた。
宮市「(和製ロナウドと言われていることに)プレッシャーは感じていません。僕自身、大好きな選手なので、少しでもクリスティアーノ・ロナウドに近づけるようにチャレンジしていきたい。突破力は通用するという自信はありますし、すごい評価をいただいたことは本当に嬉しいけど、まだまだやれる、まだまだ伸びるという自信もあります」
期限付き移籍する先のクラブで何年プレーするのか。ひとつのクラブなのか、それとも移籍を繰り返すのか。中にはアーセナルよりはるかに劣る環境のクラブもあるだろう。
何よりも大切な英語でのコミュニケーションが図れなければ、右も左も分からない海外で耐えようのない孤独な日々が待つことになる。中田英寿や本田圭佑に代表されるように、海外で実績を残した日本の選手たちは例外なくコミュニケーションを取る術を身につけていた。
W杯代表に3度名を連ねたMF稲本潤一でさえ跳ね返され、リーグ戦での出場がゼロで終わった名門アーセナルの壁は、その中でも最も高く、険しい。
だからこそ、18歳のチャレンジャー魂がかきたてられる。あえていばらの道を進んでいける。
試合は中京大中京のディフェンスラインがズルズルと下がった後半に3ゴールを立て続けに奪われ、無念の逆転負けを喫した。神村学園に2対10で大敗した昨年に続く緒戦敗退。宮市自身は後半6分、9分と相手の最終ラインの裏に抜け出し、最後はGKと1対1になりながらフィニッシュをミス。結果的にこの2つのプレーが響いた形となった。
宮市「ストライカーとして、決められるところで決めないと。突破力は自分のウリですけど、もっと決定力を意識しないと、どんな形でも点を取れる選手にならないと世界では通用しない。まだまだです。この負けを生かして、次のステージでしっかりと自分を磨き上げたい」
未来を見すえる宮市の瞳に、不退転の決意を物語るように涙はなかった。
余談になるが、宮市のマーク役だった松下は「もういっぱい、いっぱいでした」と後半17分にベンチに下がっている。代役に指名されたのは、FWが本職の塩田涼介だった。
「いわゆるギャンブルです。ウチで一番足が速い子なんですけど、まさかあんな場面で、しかも右サイドバックとして起用することになるとは思いませんでした」
久御山の松本監督は唐突に映った選手交代の舞台裏を明かし、注目校を撃破しての白星発進を、むしろ驚きを隠せない表情を浮かべながらこう振り返っている。
「宮市君は本当に速くて、強かった。ウチはついてました」
文字通りの強烈な残像をピッチに刻んで大会を去ったホープはしばしの休息で鋭気を養い、1月中に希望の地ロンドンへと渡る予定になっている。
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2010年12月31日 22:58|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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