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急がば回れ。斎藤佑樹が思い描く意外な実戦デビュー by 藤江直人
期待と不安を同居させて臨むキャンプへ。早稲田大学からドラフト1位で入団した北海道日本ハムファイターズの注目ルーキー、斎藤佑樹投手が目指す開幕一軍への意外なテーマを設定した。
「最初は打たれておきたい、と思っています」
2月1日から沖縄・名護でキャンプを張る日本ハムは、第2クール終盤の同7日と8日に紅白戦を実施。早くも実戦モードに突入する。千葉・鎌ケ谷のファイターズスタジアムで行われている新人合同自主トレーニングで調整を続ける斎藤は「もちろん(チーム全体の)様子を見ながらですが」と前置きした上で、自身が描いている実戦登板の青写真を披露した。
「自分の考えとしては、中旬くらいからと考えています」
日本ハムのキャンプスケジュールの「中旬あたり」を見ると、16日に阪神タイガース、17日に昨シーズンの韓国王者SKワイバーンズ、19日の紅白戦をはさんで20日に東京ヤクルトスワローズ、21日には横浜ベイスターズとの練習試合がすべて名護市営球場で組まれている。
いずれの試合に登板しても、人気抜群の大物ルーキーの初お目見えとあって、空前のフィーバーとなるのは必至。ファンやメディアが大挙して名護に集結し、当日のテレビのスポーツニュースや翌日のスポーツ新聞も、その一挙手一投足を詳細に報じるだろう。
まさに節目となる実戦デビューのマウンド。そこで「打たれておきたい」とあえてプロの洗礼を浴びることを望んでいる斎藤の意図はどこにあるのか。
答えは大学時代を振り返る、斎藤の次の言葉に凝縮されている。
「基本的にアウトコースに自信をもって投げたストレートは打たれていないんです」
もちろん、プロの世界では現時点ですべてが手探りであり未知数。命綱としてきたウイニングショットが簡単に通じるとは思っていない。だからこそ、練習試合とはいえ、他球団の打者と初めて対峙する真剣勝負の舞台で、結果よりも優先させて頭と体に覚えさせたいことがある。
「大学生が打てなかったタマを(プロの打者が)どう打つのか。どこからが(打たれる)ラインなのかを、大学とはどう違うのかを確かめたい。何が通用するかも分からないし、高低を含めたコースも球種もすべて投げて、プロのレベルを知りたいんです」
大学時代から貫いてきた自身の調整法を、斎藤は「実戦式」と位置づけている。
新人合同自主トレーニングで初めてブルペンに入った18日。肩慣らしの10球を含めた42球を、斎藤は捕手を立たせたままのいわゆる「立ち投げ」で行った。
捕手を座らせてコースを狙うよりも、まずはストレートのキレを出すことを主体に投げ込んでいくのが、この時期におけるプロのピッチャーの代表的な調整法だ。しかし、斎藤はある種の違和感を抱えながら注目の初ブルペンを終えていたという。
「基本的にはマイペース。人に流されることなく調整していきたい。基本的に立ち投げはしない方なので。捕手が座っている状態で投げる方が実戦に近い。次か、その次には座らせたい」
言葉通りに、前回から中2日で通算3度目のブルペンに入った24日は、26球の立ち投げで肩慣らしを終えたところで駒居鉄平ブルペン捕手兼二軍マネジャーが腰を下ろした。
斎藤曰く「6割程度の力」で、スライダー3球、カットボール1球を含む28球を心地よさそうに投げ込む。得意の外角ストレートが決まるたびに、駒居捕手の「OK」の声が響く。
午後3時すぎ。クールダウンを終え、囲み取材に応じた斎藤が声を弾ませた。
「やっぱり(座らせて投げるのは)楽しいですね。イメージがわきやすい。打者が立っているイメージもそうだし、失投をなくすように、という心掛けはしている。感覚というか(練習の段階から)真ん中に投げることはないので。コースはいつも意識しています」
左足を上げた時に軸足の右ひざを折り曲げる、独特のピッチングフォームで高校3年夏の甲子園大会を延長再試合の末に制し、東京六大学でも順調に白星を積み重ねてきた。
しかし、大学4年生の後半になって、右ひざをピンと伸ばすマイナーチェンジをほどこした。12日からの新人合同自主トレーニングでもブルペンはもちろん、キャッチボールの段階から軸足にしっかりと重心を乗せ、スムーズな体重移動からストレートにスピードを球威をアップさせる新フォームを入念に確認。斎藤自身も「大学の時よりいい感じ」と手応えを感じている。
「いろいろなところを気にしながら投げている。まだ自主トレの段階なので、プロのストライクゾーンも意識しながら、いろいろと試行錯誤できたらいいなと思っています」
24日の練習を視察した山田正雄ゼネラルマネージャーも目を細める。
「右ひざの折れ具合が小さくなった点を斎藤本人に確認したら、『ちょっと直しています』と言っていた。いろいろと考えているみたいだね。自分なりに区別していけばいいし、実戦で打者を抑えたり、打たれたりする中で修正していけばいい。その能力はあるからね」
その実戦で、斎藤は「打たれておきたい」なるプランを描いている。しかも「最初は」と前置きしている点に、開幕一軍を目指す斎藤の決意のほどが凝縮されている。
それは「急がば回れ」。あるいは「肉を切らせて骨を断つ」か。プロの猛者たちのレベルを頭脳にインプットしないことには、自身の最大の武器である制球力と投球術は駆使できないからだ。
新人合同自主トレーニングは3勤1休で、名護に出発する前日の30日まで行われる。今後は第5クール初日の28日に通算4度目のブルペンに入って鎌ケ谷での投球練習を打ち上げる予定だが、捕手を座らせて投げるタマ数は多くて40球前後にとどめるという。
オフだった23日に敢行したアーリーワークも、最後のオフとなる27日には封印して鋭気を養う。アピールが必要なルーキーとしては物足りなさも覚えるが、斎藤本人に焦りはない。
「どこをピークにしようとは考えていないし、カッコつける必要もない。今の自分を見てもらって、実力がなければ二軍で鍛えればいいんです」
己の現在地を冷静に見ることができるのも、斎藤佑樹というプレーヤーの長所と言えるだろう。
日本ハムの梨田昌孝監督は、すでに斎藤のキャンプ一軍スタートを明言している。
名護ではこれまでのプロ野球の歴史を塗り替えるような、空前絶後の大フィーバーが繰り広げられるのは必至。もっとも、連日のように鎌ケ谷のスタンドを埋めたファンから、常に黄色い声援を送られていた斎藤の新人合同自主トレーニングを何度か取材した、野球評論家で日本ハムOBの岩本勉氏は「佑ちゃんにはまったく『スキ』がない」と太鼓判を押す。
「必要以上にファンにヘラヘラしないし、意識もしない。やるべきことをしっかりやっていた。最近の新人でいえば松坂大輔以上の注目を浴びるでしょうけど、プレッシャーにはならないでしょう」
他の人よりも苦しむ、という覚悟を決めてプロの世界に挑む斎藤にとって、実戦デビューのマウンドで無残な姿をさらすことはいわば想定内。順調に調整が進んでいる証とも言えそうだ。
2011年1月25日 01:59|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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