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システム論よりも個の力!本田圭佑が残したメッセージ  by 藤江直人

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■キリンカップサッカー2011
日本代表[FIFAランク14位] 0‐0(前半0‐0) チェコ代表[FIFAランク32位]
[6月7日午後7時32分キックオフ@横浜国際総合競技場/観衆6万5856人]
※日本、チェコ、ペルーの3か国が同時優勝


 日本代表を率いるアルベルト・ザッケローニ監督は、笑顔で結果と内容に及第点を与えた。
「あくまでもこのシステムはバリエーションのひとつだと話してきた。まだ始めたばかりだが、選手たちのできには満足しているし、いい意味でのサプライズはあった。ペルー戦に比べればかなりよくなった。数日間の練習だけでこれだけできるというのは、たやすいことではない」
 3トップの右でフル出場した本田圭佑(CSKAモスクワ)の表情は強ばったままだった。
「たぶん監督はすごくポジティブなことを言っていると思いますけど、そのレベルで会話をしていたらいけない。もうちょっと全体的に、さすがと思わせるサッカーをしていかないと。最低ライン、という意味ではいいんじゃないですかね。ここから上を目指していくしかないので」
 

 薄いついたてで隔てられた監督会見場と選手の取材エリアとなるミックスゾーンで、スコアレスドローに対する指揮官とエースの対照的な受け止め方が図らずも浮き彫りになった。
 フィールドプレーヤーの交代枠はまだ3つも残っていた。しかし、ザッケローニ監督は新戦力のテストを必要最小限にとどめ、5月30日からのミニキャンプを通じて徹底的に指導してきた「3‐4‐3」システムを、現状におけるベストメンバーに習熟させることに固執した。
 実戦に勝るトレーニングはない。しかも、今後の日本代表のマッチスケジュールを見れば、8月10日の韓国との親善試合をはさんで、9月2日からは2014年のW杯ブラジル大会出場権をかけたアジア3次予選が始まる。新しいオプションの導入には打ってつけの一戦だった。


 だからこそ、日本代表戦史上で歴代6位となる大観衆が見守る中、0対0の均衡を破ることができなくても、試合終了の笛が鳴るまで「ぎこちなさ」を伴う新システムにこだわった。
 一方の本田は「ぎこちなさ」に歯痒い思いを募らせていた。迎えたハーフタイム。ザッケローニ監督に対して「ポジションにこだわらずにプレーがしたい」と直訴したという。
 指揮官は躊躇することなく本田の思いを受け入れた。前半から持ち場である右FWを離れることが多かった本田の神出鬼没ぶりは、後半に入るとさらに顕著になる。
 左MFの長友佑都(インテル)に絡むこともあれば、トップ下の位置から前線へのスルーパスを狙い、ときにはボランチの位置まで下がってパスを散らして試合を動かし続けた。


 後半32分に訪れた最大の得点チャンスも、本田から生まれていた。
 長友が左から放ったクロスがチェコの屈強なセンターバックにはね返される。クリアボールを拾ったのは、中盤の中央にポジションを移していた本田。ボールをキープしながら、ターゲットを右サイドから走り込むFW岡崎慎司(シュツットガルト)に合わせる。
 左足から放たれたライナー性のクロスの軌道と、マーカーの背後からジャンプした岡崎の頭とが完璧にシンクロする。しかし、叩きつけられたヘディング弾は名門チェルシーで活躍するGKペトル・チェフがファインセーブ。こぼれダマを押し込んだFW李忠成(サンフレッチェ広島)の一撃も、体勢を崩しながら左手を伸ばしたチェフの執念の前に再び止められた。


 もっとも、本田が持ち場である右FWのポジションを頻繁に離れたことで、90分間を通して右MFの内田篤人(シャルケ)が孤立無援となる状況が目立っていたのも事実だった。
 ザッケローニ監督が掲げる「3‐4‐3」システムの最大のテーマは「サイドで数的優位をつくって相手を崩す」ことだ。基本的に左は長友と岡崎、右は内田と本田が連動する形が求められたが、必死にコンビネーションを合わせようとしていた左と単発の右は文字通り対照的だった。しかし、ザッケローニ監督は身勝手に映ってやまなかった本田のプレースタイルに笑顔で理解を示している。
「本田の特徴は90分間消えないことだ。サイドに張るだけでなく、中に入る判断は間違いではない。手元にデータはないが、おそらく本田が今日一番ボールを触ったのではないか」


 日本の「3‐4‐3」システム対策として、チェコは両サイドを手薄にしない「4‐5‐1」システムで臨んできた。結果として日本は数的優位な状況をつくり出すことができず、それでも練習で積み重ねてきた攻撃パターンを貫こうとしたことが「ぎこちなさ」を生み出していた。
 キックオフ前のミーティング。ザッケローニ監督は選手たちにこんな指示も出している。
「ここ数日で言ったことを全部やろうと思うな。スタートポジションのところと最後のフィニッシュのところだけのイメージを持って、アプローチに関しては特に固執しないように」  
 指揮官自身、不慣れな「3‐4‐3」システムのもとで結果を出そうとするあまりに選手たちが混乱をきたし、まず頭で考えてしまう時間が長くなっていた傾向を危惧していたのだろう。


 システムに代表される数字が先か。刻々と変わる状況に応じた個々の閃きが先か。
 本田は後者が絶対にして唯一と公言してはばからない。前半だけを「3‐4‐3」システムで戦い、スコアレスドローに終わった1日のペルー戦の翌日にはこんな持論を展開している。
「ぶっちゃけ、システムは何でもいいんですよ。その話はやめにした方がいいと思う。数字の話をしていても前に進まない。みんな窮屈そうにやっていた。システムよりも誰がよかったのか、誰が悪かったのか、誰がどこでボールをもらうべきなのかを考えるべきでしょう。メディアもそうだけど、みんなシステムに固執しすぎ。そこらへん、一緒に成長していければいいなと」
 指揮官が描く構想に真っ向から異を唱えた。批判と取られるのを覚悟の上で、だ。 

 
 会場を横浜市内に移した3日の練習では頻繁に右FWを離れるプレースタイルをザッケローニ監督から咎められ、翌4日にはレギュラー組からも外された。それでも、本田はブレない。
 実際、サイドに人数をかけて蓋をしたチェコは逆に中央が薄くなっていた。相手の弱点を突かない手はない。右サイドで攻守に奮闘した内田は、本田の動きは織り込み済みだったという。
「本田さんがトップ下みたいな感じで動いて、真ん中でドーンとボールを持てば周りが動き出せるし、オカちゃん(岡崎)やチュンソン(李)とかも絡める。左足からの一発も持っているし、もちろんサイドで張っていてもいいんだけど、そこはボールを持った人と周りのアイデア次第だと思う。システムが3‐4‐3でも4‐2‐3‐1でも、そこは一緒じゃないですかね」


 試合後にはザッケローニ監督から「ポジショニングは問題ない」と及第点をもらった内田は、右サイドにおける本田との関係について、独特の飄々とした口調でこう語っている。
「距離が近かっただけで、特にこうしよう、ああしようというのはなかった。本田さんと僕とではなくて、本田さんと(吉田)麻也とのパス交換が多かったからね。僕がウラに抜ける分、ポジションチェンジの形になるだけで、僕と本田さんが2人で絡むことはそんなになかったと思いますけどね。僕自身が高い位置でボールを持つことに慣れれば。視野も(右サイドバックとは)まったく違ってくるので、慣れた段階でまた勉強です。全部が全部、うまくいかなくてもいいんじゃないですか。もっとできたと思うけど、それほど最悪でもない。悪くなかったと思いますよ」
 

 練習で微に入り細に動きを叩き込まれても、それは机上の理論にすぎない。対戦相手がいる以上、臨機応変な応用が必須となる。ザッケローニ監督自身、ペルー戦後にはこう語っていた。
「他のシステム同様に、3‐4‐3にも長所と短所とがある。絶対的なシステムは存在しない。システムの問題ではなく、いかにそのシステムを理解し、活用するかだろう」
 本田も決して反旗を翻しているわけではなく、ゴールキックなどのシーンになると小走りで右FWの定位置へ戻っていた。だからこそ、ザッケローニ監督は本田の型にはまらない動きにも一定の理解を示したのだろう。本田自身も指揮官の懐の深さと寛容力に勝利という結果で応えたかったからこそ、冒頭の「さすがと思わせるサッカーをしないと」という言葉が口を突いたのではないか。4度を数えたフリーキックのチャンスで一度も枠を捉えられなかったことも、本田の負けず魂を煽っているはずだ。


 Jリーグと同じ春秋シーズン制のロシアリーグがシーズンの真っ最中ということもあり、チェコ戦から一夜明けた8日、本田は成田空港から慌しくモスクワへと飛び立った。
 90分間を通してプレーで仲間たちにメッセージを伝え、ミックスゾーンでは珍しく自ら立ち止まり、再び持論を披瀝したからか。空港では終始、無言を貫いたという。
 もっとも、メディアを通じて発信されたメッセージの内容は強烈だった。 
「本当に(所属クラブに)戻ってそれぞれが意識しないと。そんなに簡単には(レベルが)上がらない。代表で集まったときに求めても遅いから。どれだけアンビションを持ってやれるか。オレがよく話す連中はそういうのを持っているけど、サッカーは3、4人でやるわけではない」


 アンビションを和訳すれば「野望」となる。本田にとってのそれは3年後にブラジルで開催されるW杯を制することであり、今では長友や岡崎らと同じ青写真を共有している。
「佑都みたいに個を追及する者だったり、決定力を追求する者だったり、体を張って1人で止める能力を磨く者だったり、個をどれだけ意識できるか、というのが次に集まったときに重要になってくる。今日からまたスタート。オレはヨーロッパ組にはあんまり休むなと言いたい。特に麻也なんかは若いんだし、1週間休んであと3週間はトレーニングしてほしいですね」
 つかの間のオフに入るヨーロッパ組へ、過密日程となるJリーグ組へ、そして10日のリーグ戦に臨む自分自身へも向けられた檄。日本代表の連続不敗記録を14戦に更新したことも、3か国同時ながらキリンカップ4連覇を達成したことも、本田圭佑という男の飢えを満たすことはできない。


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2011年6月 9日 00:44|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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