Home > 本日の論! > 「ポスト遠藤」へ。ボランチ家長昭博の新たなチャレンジ  by 藤江直人

「ポスト遠藤」へ。ボランチ家長昭博の新たなチャレンジ  by 藤江直人

「ポスト遠藤」へ。ボランチ家長昭博の新たなチャレンジ  by  藤江直人

☆☆☆論スポ最新号の購入はこちらをクリックしてください!☆☆☆


 ピッチの上にいた時間は、ロスタイムの3分間を含めて30分弱。交代出場から10分後の後半29分に左足から放たれた唯一のシュートは、ゴールの枠を大きく外れた。
 スコアレスドローに終わったチェコ代表との一戦で決定的な仕事をしたかと言えば、残念ながら答えはノーとなる。縦横無尽にボールに絡み続けたFW本田圭佑(CSKAモスクワ)や、黄色い歓声と眩いスポットライトを集めたDF長友佑都(インテル)ほどの存在感もない。
 それでも、MF家長昭博(マジョルカ)にとって、そしてアルベルト・ザッケローニ監督率いる日本代表にとって、2011年6月7日は「特別な一日」となるのではないだろうか。


 家長が国際Aマッチの舞台でプレーするのは、実に1536日ぶりとなる。
 2007年3月24日。くしくもチェコ戦と同じ横浜国際競技場で行われたペルー代表との国際親善試合。イビチャ・オシム監督に抜擢された20歳の家長は、日本が2対0とリードして迎えた後半39分にMF鈴木啓太(浦和レッズ)と交代でピッチに送り出された。
 興奮と緊張が交錯したはずのA代表デビュー戦。しかし、当時はガンバ大阪で「和製メッシ」なるニックネームを頂戴していた家長は「あまりよく覚えていない」と苦笑いする。
 無理もない。当時と今現在とでは、見える「景色」がまったく異なっているからだ。


 ガンバのジュニアユース時代からドリブル突破を得意とする天才アタッカーとして注目され、2004年6月26日のアルビレックス新潟戦ではユースに籍を置く二種登録選手としてJ1で初先発。開始早々の9分に先制ゴールを決めるセンセーショナルなデビューを果たした。
 この試合でボランチとして家長を後方支援していた遠藤保仁は、後にこう語っている。
「僕より年下の選手ですごいと思ったのは、能力だけで言えば家長が一番ですね。彼がガンバのユースにいるときから『すごい選手がいる』と聞かされてきたし、実際にトップチームに昇格してきたときには、すぐにでもA代表に入ってくるんじゃないかと思ったほどですから」


 あれから7年。遠藤は日本代表のボランチとして不動の地位を築き、獲得キャップ数はチェコ戦で108に到達。日本歴代3位のDF中澤佑二(横浜F・マリノス)の110に肉迫した。
 中盤の底で巧みにタメをつくり、長短のパスを正確無比に配給できる遠藤は、オシム政権時代からいっさいの代役がきかない存在となる。アルベルト・ザッケローニ監督が就任して約9か月が経過した今現在では、チーム最年長の31歳にして唯一の30歳代。3年後のW杯ブラジル大会をにらみながらの「ポスト遠藤」探しは、リスクマネジメントの意味でも急務だった。
 迎えた今回のキリンカップ。指揮官は温めていたプランをついに実行に移した。


 5月30日から始まったミニキャンプで、家長はボランチの位置に入るように命じられた。
「アキ(家長)をセントラルMFで起用しようと思っている。不慣れなポジションで戸惑いはあるかもしれないが、彼の能力からして十分にできると思っている」
 念願だった海外移籍を果たしたマジョルカでも、トップ下を主戦場に2ゴールをマークした。ボランチの経験はトリニータとセレッソでそれぞれ数試合ある程度だが、左足から繰り出される精度の高いパスと卓越したキープ力が指揮官の眼鏡にかなったのだろう。だからこそ、遠藤との交代で後半19分からピッチに立ったチェコ戦は、家長にとって特別な意味を持つ。


 ほとんど未知のポジションでの新たなスタートへ。家長はあくまで自然体を貫く。
「ボランチだからといって気負うことなく、シンプルに考えて近くにいる選手を使いたい」
 最初はぎこちなさが目立ったが、5分もすると背番号10のもとにボールが集まりだす。家長が放ったパスの総数は26本。そのうち23本を計7人のチームメートに通した。
 バイタルエリアのケアを含めた守備面では何度か心もとないシーンもあったが、中盤の底からフリーの味方にテンポよくボールを配給しようというプレーの意図は明確だった。
 その中で非凡なパスセンスも垣間見せた。それも2度。最初は後半39分だ。


 チェコの無造作なクリアがちょうど家長の目の前に飛んでくる。脳裏には味方の位置がインプットされていたのだろう。前方右のスペースにフリーでいた本田へダイレクトのパスを通す。
 本田が相手をひきつけてから、ゴール前に陣取っていたFW李忠成(サンフレッチェ広島)へパス。李のシュートは相手DFにブロックされたが、スムーズな連携にスタンドが沸いた。
 2分後には本田からパスを受けて、一瞬のタメをつくった後に、本田を追い越すようにペナルティーエリア内に侵入してきたMF内田篤人(シャルケ)へロビングのパス。マーカーに体を寄せられてシュートには至らなかったが、家長の視野の広さが証明されたシーンでもあった。


 試合後の選手の取材エリアとなるミックスゾーン。家長は驚くほどに淡々としていた。
「ヤットさん(遠藤)と比べる必要はないし、そんなの考えたこともない。僕がやってることを周りが見て、似てるとか違うとか言ってもらえればいい。特に意識はしていません」
 ならば、ボランチとしての自身のプレーを、どうとらえているのか。
「基本的に真ん中でボールをもらえればフリーになれますから。だからこそ、もうちょっと相手を揺さぶったり、おちょくってもよかった。あるいは、もっと長くボールをキープすれば相手もしんどかったと思うし、この相手に勝てないというのは、やはり課題だらけですよね」


 攻撃陣の層が厚いガンバでなかなか定位置をつかめず、2008年には出場機会を求めて大分トリニータへ期限付きで移籍。しかし、シーズン開幕直前に右ひざの前十字じん帯を損傷する全治6か月の大けがを負い、代表選出が確実視されていた北京五輪を棒に振った。
 ようやくトップパフォーマンスを取り戻したのは、日本代表がベスト16に進出したW杯南アフリカ大会の余韻がまだ残っていた昨年夏以降。トリニータからさらにプレーの場を求めて移ったセレッソ大阪で、ドルトムントに移籍したエース香川真司が抜けた攻撃陣の核として4得点10アシストをマーク。J2から再昇格して1シーズン目で、チームが3位に大躍進する原動力になった。


 昨シーズンのあるリーグ戦後に、家長にW杯についての思いを聞いたことがある。
 1986年6月13日と生年月日がまったく同じで、ガンバのジュニアユースでも同期生だった本田は南アフリカでの大活躍を経て、日本の不動のエースに君臨していた。
「自分のストロングポイントを磨いていかないと(W杯は)見えてこない。これという自分の武器がないと、あのような大きな舞台では活躍できないと思っているので」
 ガンバでユースに昇格できなかった本田は、得点力という絶対的な武器を携えて代表における居場所を築いた。ならば、先を越された自分は何を携えて、ブラジルの地を目指せばいいのか。


 自問自答の日々が続いていたが、結論は見えてこない。家長はこうも語っていた。
「模索中です。とにかく、今は自分の力をつけていきたい」
 セレッソのエースという居場所に安住せず、スペインに新天地を求めたのも、あえて厳しい環境に飛び込んだ方が自分自身を見つける旅に終止符を打てると思ったからなのだろう。
 公式ブログのタイトルを「拝啓 自分不器用デスカラ」としている24歳ならではの無骨なチャレンジ。そして、昨シーズンから家長の存在に注目し、アジアカップの予備登録メンバー50人の中にも選出していたザッケローニ監督が、ブラジルへの羅針盤を手渡してくれたのだ。


 ダブルボランチのポジションは、岡田武史前監督時代の2009年5月のコートジボワール戦から遠藤と長谷部誠(ボルフスブルク)の2人がほぼ不動となってきた。
 コンビネーションの面でも、経験値の面でも、2人のレベルは突出している。だからこそ、天才と呼ばれた頃よりもさらに輝きを放たんとしている家長の挑戦者魂がかき立てられる。
「負けるとは思っていないし、負ける気もしない。あとは監督からの信頼だけだと思っている。本当に経験豊富な2人だけど、そういう選手にプレッシャーを与えられる存在になれれば。ボランチとして結果を残せば、その前でも使ってもらえるはずなので。まずはひとつひとつですね」

   
 今後はつかの間のオフで鋭気を養い、7月から始まるマジョルカのキャンプに臨む。満を持して開幕から臨む新シーズンと日本代表は、家長が描く青写真の中で密接にリンクしている。
「代表でまた集まったときに個々の能力が上がっていれば、必然的に代表のレベルも上がる。自分の場合は戦術うんぬんより、個人的な能力が足りない。どうしても所属チームでプレーする時間の方が長いので、そこ(マジョルカ)でレベルアップしていけたらと思う」
 かつては遠藤が一目を置き、同世代の本田や長友を畏怖させた男。思わぬ遠回りを経て、ようやく見つけたボランチの位置で稀有な才能が開放されるほどに、家長とW杯の距離も縮まっていく。


☆☆☆論スポ最新号の購入はこちらをクリックしてください!☆☆☆

2011年6月 9日 22:44|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

トラックバック(0)

この記事のトラックバックURL: http://sv62.wadax.ne.jp/~sports-times-jp/mt/mt-tb.cgi/525

コメント(0)

コメントを書く