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首位撃破!「カズ魂」に導かれたフロンターレの劇的勝利 by 藤江直人

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■J1第5節
川崎フロンターレ[勝ち点30] 3‐2(前半2‐0) 柏レイソル[勝ち点34]
[7月16日午後7時5分キックオフ@等々力陸上競技場/観衆1万9619人]
白いユニホームを着た敵が食らいついてきたことだけは、かろうじて視界の片隅にとらえていた。それが誰なのか。川崎フロンターレのFW久木野聡は「分からなかった」と思わず苦笑いする。
2対2で迎えた後半39分。左サイドを突破したFWジュニーニョからペナルティーエリア内でパスを受けた久木野は、タテへ突破すると見せかけて、次の瞬間、素早く右へ切り返した。
久木野「とにかくシュートを打とうと思って。ボールしか見ていませんでした」
何とか反応した柏レイソルのDF近藤直也だったが、久木野のクイックネスが想像以上だったのだろう。たまらず左足で引っ掛け、倒した直後に主審のホイッスルが鳴り響いた。
ピッチに突っ伏している背番号29のもとへ、仲間たちが次々と駆け寄ってくる。近藤にイエローカードが提示されたことすら分からないほど、久木野は夢心地の中にいた。
久木野「倒された瞬間にPKだと思いました。あとは『お願いだから外さないで。失敗したら何の意味もなくなるから』とジュニが決めることをひたすら祈っていました(笑)」
大役を託されたジュニーニョがボールをセットする。しばしの静寂が訪れた後、ゆっくりとした助走から背番号10が右足を振り抜く。豪快な弾道がゴール左に突き刺さると、大歓声に揺れたスタジアムの中で隠れたヒーローは小さく、控えめなガッツポーズを繰り返していた。
首位を走るレイソルをホームの等々力陸上競技場に迎えた大一番。キックオフ前の時点で勝ち点差7の5位につけていたフロンターレは、すでに満身創痍の状態だった。
0対2の完敗を喫した前節13日の浦和レッズ戦後に大黒柱のMF中村憲剛が体調不良を、攻守のつなぎ役であるボランチの稲本潤一が右ひざに違和感を訴えてきた。
レイソル戦の当日になっても憲剛の発熱は治まらず、一方の稲本も15日の前日練習のアップを終えた段階で「X」サインが出されていた。日本代表としても豊富な経験を持つ2人が、スタメンはおろかベンチからも外れる緊急事態。不安がなかった、と言えば嘘になる。
右サイドバックの田中裕介は「動揺はあった」と正直に打ち明けながら、こう続ける。
「それ以上に『絶対に負けられない』という気持ちを、チームのみんなが持っていた」
言葉通りに開始5分でFW矢島卓郎がこぼれダマを執念でゴールにねじ込み、サポーターを狂喜乱舞させる。しかし、予想だにしないアクシデントは試合中にも立て続けにフロンターレを襲う。
左太ももの裏に違和感を訴えた矢島が、自ら交代を申し出たのが前半30分。急きょ投入されたFW小林悠が1分後にファーストタッチで追加点を決めたのもつかの間、そのゴールをお膳立てした日本代表のボランチ柴崎晃誠までもが左足の内転筋を痛めてしまった。
DF井川祐輔を通じて柴崎の異変を知らされた相馬直樹監督は、前半の残り時間こそ辛抱するものの、後半開始と同時に早くも2枚目の交代のカードを切らざるを得なかった。
柴崎の代わりにボランチに回ったのは田中。指揮官をして「練習で何回かやった程度」と言わしめた急造布陣が、くしくも後半開始と同時に攻撃的な選手を2人投入し、シュート0本に終わった前半から一転、プレッシャーを強めてきたレイソルの前に後退を余儀なくされてしまう。
クサビとなるタテパスへの対処が微妙に遅れ、守備陣が慌てて中に絞ると、次の瞬間には左右の両サイドがぽっかりと空いてしまう悪循環。瞬く間にレイソルのエンジンが全開となる。
ロンドン五輪出場を目指すU‐22日本代表でも右サイドバックに定着した酒井宏樹が、面白いようにスペースを突いては、得意とする高速&低空クロスを放り込んでくる。
後半9分に酒井のクロスがフロンターレのDFに当たってオウンゴールとなると、26分には再び酒井のクロスをMFレアンドロ・ドミンゲスが押し込む。さらにレイソルが攻勢を強めてくる危機的状況の中で、アップを繰り返していた久木野は心の中でこう呟いていたという。
久木野「ここはオレしかいないだろう、って思いながら準備をしていました」
同点とされてから8分後。指揮官は迷うことなく久木野をピッチに送り出した。
ここで「迷うことなく」としたのは、今シーズンの久木野の成績と密接にリンクしている。
出場わずか3試合。先発はゼロ。トータルのプレー時間はたった7分。フロンターレにおける最後のゴールは、2008年3月のジェフユナイテッド千葉戦までさかのぼらないと見つけられない。
それでも相馬監督は「点を取ってこい!」と背中を押した。理由は単純明快だ。
「ここ最近の練習でずっと元気でしたし、プラス、点を取りたいシチュエーションでしたので」
宮崎県の強豪・日章学園高から加入したのが2006年。ゴール前でのスピードと泥臭さを武器とする24歳が仲間たちの手荒い祝福の的にされたのは、交代からわずか5分後だった。
試合前に配布されるメンバー表の前所属チーム欄には「横浜FC」と記されている。
なかなか殻を破ることができず、サイドハーフやサイドバックとしても起用されはじめていた2009年のオフ。J2の横浜FCから期限付き移籍のオファーを受けた。
どうしてもFW一本で勝負したい、と念じていた久木野は自問自答した末にフロンターレを飛び出すことを決意する。J2での1年は故障が相次いだこともあって出場15試合、2ゴールという不本意な成績に終わったが、移籍したことを後悔してはいない。サッカー人生を決定的に変えたと言っても決して過言ではない、かけがえのない「経験」を積むことができたからだ。
今もはつらつとプレーする44歳の現役最年長選手、FWカズを間近で見続けてきた。
久木野「カズさんは常日頃の意識の高さがすごい。コンディションを落とさないために、一日の始めと終わりとで毎日同じルーティーンをこなしている。試合に出られなくても、居残り練習で一生懸命汗を流していた。毎日の準備を怠らないことの大事さを教えられました」
親会社のレオックが学校や病院、企業の給食や食堂の管理・運営をしていることもあり、横浜FCのクラブハウスでは昼食がバイキング形式で出される。そこでもカズは自身のコンディションや試合までの日数などを考慮しながら、常に最善のメニューを選択して食べていたという。
カズが今も現役を続けられる理由を垣間見たと同時に、自分自身が恥ずかしくなった。相馬体制になった今シーズン。呼び戻されたフロンターレで開幕からなかなか出番が訪れない状況が続いても、久木野に焦りや不安は生じなかった。やるべきことが分かっていたからだ。
久木野「必ずチャンスが訪れると信じて、コンディションを落とさずに、集中力を切らすことなく練習を積み重ねる。カズさんというビッグな選手と一緒だった1年間は僕の財産です」
5月29日のガンバ大阪戦を最後にサブに甘んじていても、久木野は腐らなかった。努力が実を結んだ決勝PK奪取。「(監督に)見てもらえている。嬉しいですよね」と声を弾ませる。
開幕から主軸を担ってきた選手が一挙に4人もピッチを去り、首位レイソルの底力に屈しそうになりながらも、まさに「総力戦」の末につかんだ白星。相馬監督の言葉にも力がこもる。
「チームが本当にひとつになって戦えた。我々とすれば素晴らしいゲームができたと思う」
逆転負けを喫していればレイソルとの勝ち点差は10に広がっていた。チーム史上初のタイトル獲得を目標として掲げる今シーズン。誰もが劇的な白星の価値を感じていた。
久木野「2対0のまま逃げ切ればベストでしたけど、同点になった時点で、ベンチの選手に必ずチャンスが来ると思っていた。勝ち点差が開くか、縮まるか。首位相手の勝ちは大きい」
レイソル戦で長丁場のリーグ戦の折り返しを迎えた。2勝3敗とスタートダッシュこそつまづいたが、その後の12試合は7勝3分け2敗と上昇気配に転じた。相馬監督は言う。
「決して悪くはない位置にいるとは思いますが、てっぺんを目指すと言って始めたので、まだそこには足りません。中断期間がないので(リーグ戦を)やりながらではありますが、足していければと思う。この勝利をつなげられるように、まだ連戦がありますけど、頑張っていきたい」
シーズンと同時進行で成長していくフロンターレの象徴が、途中出場だけで6ゴールをマークしている2年目の小林であり、公式記録には残らない大仕事をなし遂げた久木野となる。
選手情報が微に入り細で満載されていることで評判のフロンターレの公式ホームページ。久木野が紹介されているページの一部には、こんなやり取りが掲載されている。
Q:一緒にプレーしてみたい選手は?
A:カズさんと一緒にプレーできました!
昨シーズン終了後。横浜FCを去る際に久木野は意を決してカズにお願いし、スパイクを譲り受けた。大切な「宝物」を目にするたびに久木野はカズの姿勢を脳裏に刻み、フロンターレでの一日一日を大事に過ごし、指揮官の信頼を勝ち取り、ターニングポイントとなる大一番で見事に結果を出した。
ファンを魅了してやまない「カズ魂」は、J1戦線にも少なからず影響を与えていたのだ。
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2011年7月17日 04:46|記事URL|コメント(1)|トラックバック(0)
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コメント(1)
首位の柏が相手、ホーム等々力、憲剛&稲本の不在、いろんな要素が詰まった大事な試合でしたが、勝ててよかった!
たとえベンチスタートだとしてもカズ・イズムを持った久木野がいるのは、川崎フロンターレの武器だと思いました。
今シーズンこそタイトル奪取だっ!!!
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