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イタリアの格言に込められたザッケローニ監督の熱き思い by 藤江直人
■サッカーW杯ブラジル大会・アジア3次予選第1戦
日本代表[勝ち点3] 1‐0(前半0‐0) 北朝鮮代表[勝ち点0]
[9月2日午後7時25分キックオフ@埼玉スタジアム/観衆5万4624人]
前任者の岡田武史氏からバトンを受け継いで1年あまり。日本代表のアルベルト・ザッケローニ監督は、いつものように「コンバンワ」と日本語で挨拶しながら試合後の記者会見ルームに姿を現すと、おそらくは初めてとなる「切り出し」で北朝鮮との激闘を振り返った。
ザッケローニ監督「私が生まれ育った国イタリアには『一滴、一滴が海になる』という格言がある。たとえ小さいものでも、たまっていけば大きなものになるという意味だ」
表現としてはかなり抽象的であり、失礼ながら、言語明瞭で意味不明と言わざるを得ない。当然のようにメディアからは、会見の冒頭で格言を用いた意図を問う質問が飛んだ。
ザッケローニ監督「我々の海というのは順位表。一滴一滴というのはポイントを意味する」
2014年にブラジルで開催されるW杯への船出となる一戦を、後半ロスタイムに飛び出したDF吉田麻也(VVVフェンロー)の劇的な決勝ゴールで飾ってから30分あまり。幸先のいい勝ち点3獲得であることに間違いはないが、指揮官の説明を額面通りには受け取れない。
一滴という言葉には、さまざまな思いが込められているのではないか。0対0の均衡を破るヘディング弾がネットを揺らした瞬間に見せた渾身のガッツポーズと狂喜乱舞ぶりから一転、試合中にかける眼鏡を外し、ダンディーなたたずまいを取り戻した58歳の指揮官は静かに続けた。
ザッケローニ監督「最後の最後までゴールの中にボールが入らず我慢を強いられた。しかし、この試合を見れば、日本の勝利は当然の結果だった。ずっと我々が攻め続けていたので」
キックオフ前の予想通りに、北朝鮮はワントップのチョン・テセ(ボーフム)を前線に残し、残る9人のフィールドプレーヤーが自陣深くに引いて強固なブロックを形成してきた。
日本のボールポゼッションは約66パーセント。台風12号の影響下で強風が吹く中、グラウンダーのパスを主体にして、得意とする速いなコンビネーションから最終ラインの裏を突こうと試みる。しかし、組織力とあふれる闘志で城壁をつくる北朝鮮をなかなか攻略できない。
時間の経過とともに募る焦燥感。前のめりになった日本の間隙を突き、乾坤一擲のカウンターからゴールを奪う。北朝鮮代表のユン・ジョンス監督が描いていたシナリオは、しかし、日本が唱え続けた「我慢」の二文字の前に、遂行されることなくエンディングを迎えてしまった。
スイスの強豪バーゼルに所属する切り札、18歳のFWパク・クァンリョンが後半11分から投入され、北朝鮮の攻撃が鋭さを増そうかという場面。吉田はセンターバックのコンビを組む今野泰幸(FC東京)と、カウンターに対するリスクマネジメントを確認しあっている。
「北朝鮮がツートップ気味になったので、ヤットさん(遠藤保仁)かハセさん(長谷部誠)のどちらか一人を必ず僕らの手前に置いて、前がかりになりすぎないように徹底した」
思うように攻められないことで苛立ったのか。パク・クァンリョン後半39分に遠藤に危険なタックルを見舞い、一発退場を命じられる。北朝鮮はロスタイムに入る直前にチョン・テセを下げ、スコアレスドロー狙いを鮮明にしたが、最後まで日本から焦りは伝わってこなかった。
こうした日本の「我慢」も、ザッケローニ監督の言う「一滴」の同義語とみていいだろう。
5分が提示された後半ロスタイムの4分すぎに飛び出した決勝弾は、右コーナーキックをFW清武弘嗣がショートで長谷部につなぎ、リターンを受けて放ったクロスから生まれている。
国際Aマッチ2試合目ながら、先月10日の韓国との親善試合に続いてアシストをマークした21歳の清武は、時間切れ寸前の状況であえてショートを選択した意図をこう説明する。
「前半からずっとショートコーナーが利いてましたし、それを意識してハセさんが寄ってきてくれたんで。密集の中に放り込んだら何か起こると思ったんで。僕は蹴っただけです。みんな喜んでたんで、本当は密集に行きたかったんですけど、ちょっと遠かったのでやめました(笑)」
日本が4度目の優勝を果たした1月のアジアカップから最終ラインの「壁」として奮闘している23歳の吉田にしても、キャップ数は9とふた桁にすら到達していない。
「コンちゃん(今野)に子供が生まれたばかりなので、ゴールを決めたら『ゆりかごダンス』をみんなでやるつもりだったんですけど。興奮して完璧に忘れ去っていました」
裏話を披露して居合わせたメディアの爆笑を誘ったが、死闘続きだったアジアカップとはまた別次元の、W杯予選という独特の緊張感を「肌で感じました」と表情を引き締めた。
「急に変わることはない。こうやって相手をゼロに抑える試合を積み重ねていくことで、成長していかないと。今日の試合に限っては、前半の早い時間帯で1点を取らないといけない」
後半25分から投入され、1メートル94の体躯で存在感を発揮したFWハーフナー・マイク(ヴァンフォーレ甲府)は、24歳にして待望のA代表デビューを果たした。
右ひざ半月板を損傷して戦列を離れた大黒柱、本田圭佑(CSKAモスクワ)に代わってトップ下を務めた23歳の柏木陽介(浦和レッズ)も、今年1月のサウジアラビア戦以来、通算3個目の代表キャップを獲得。後半15分にベンチに下がるまで懸命にプレーした。
柏木は自身のプレーに不本意だったはずだ。それでも、A代表の世代交代を掲げるザッケローニ監督が期待を込めて招集し、ピッチに送り出した若手や中堅がW杯予選という舞台を通じて得た「経験」もまた、格言に出てくる「一滴」に相通じるものがあるのではないだろうか。
本田だけでなく、脱臼した右肩からの回復途上にある左サイドバック長友佑都(インテル)をも欠いた一戦。本田はスペインで患部にメスを入れただけに、長期離脱も覚悟しなければいけない。それだけに、苦しみ抜いた末に手にした白星がもたらす価値は大きい。
ザッケローニ監督「アジアチャンピオンである我々に対しては、どの国も最高のパフォーマンスをしてくる。このような激しい戦いになることは想定内だったが、その上で勝ち点3を取りたいと思っていた。後から入った選手がよくやってくれた。彼らがよくできたのは、前半から日本がボールを支配していたので、相手が次第に疲れてきて、後から入ってきた選手にもスペースができたからだ。その意味で、最初からプレーした選手たちも称賛しないといけない」
ハーフナー投入後もパスをつなぐサッカーにこだわり、ゴール前における「高さ」という絶対的な武器を生かそうという意識を統一できなかった部分は反省点として残る。
ザッケローニ監督は「相手の守備が機能していた」と北朝鮮を称えたが、それでもホームにおいては敗戦に等しい勝ち点1に終わることを頑なまでに拒否し、執拗に攻め続け、後半のロスタイムだけで今野、FW香川真司(ドルトムント)が立て続けにあわやのシュートを放った。
積み重ねたプレッシャーがボクシングのジャブのように相手にダメージを与え、最後の最後に守備網に綻びを生じさせた。プレッシャーを「一滴」に置き換えても意味は通じるだろう。
ザッケローニ監督「あえて課題を挙げるなら、パスミスが多かったこと。相手がスペースを閉じればスピードを上げなければならないが、そうすればミスが出る確率は増える。説明はつく」
死闘から一夜明けた3日、チームは6日に行われるウズベキスタンとの第2戦へ向けて敵地タシケントへ飛び立った。右足親指の付け根を骨折し、北朝鮮戦の勝利を見届けてから離脱した中村憲剛(川崎フロンターレ)の代わりに増田誓志(鹿島アントラーズ)も招集された。
ザッケローニ監督「今後も対戦相手が引いてくることは想定している。我々は志の高い集団だ。引いてくる相手でも、オープンにくる相手であっても、戦い方は変えない」
3次予選、そして最終予選と続く戦いは2013年6月まで続く。ブラジルの地で開催される次回W杯での日本の躍進を「海」とすれば、産みの苦しみを含めたすべてが「一滴」と考えればいい。積み重ねるごとに若き日本は成長を遂げ、やがて世界を驚かせる。ザッケローニ監督の確信に近い思いも、会見の冒頭で飛び出したイタリアの格言に込められている気がしてならない。
2011年9月 3日 15:18|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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