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背番号10の呪縛から解き放たれた岩渕真奈の完全復活  by 藤江直人

背番号10の呪縛から解き放たれた岩渕真奈の完全復活  by  藤江直人


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■なでしこリーグ第13節
日テレ・ベレーザ[勝ち点28] 2‐0(前半2‐0) ジェフ市原・千葉レディース[勝ち点13]
[10月15日午後1時キックオフ@稲城中央公園総合グラウンド/観衆1029人]


 緻密さと大胆さの鮮やかなるコラボレーション。後半15分に飛び出した日テレ・ベレーザの18歳、FW岩渕真奈の一連のプレーを表現すればこうなるだろうか。
 敵陣に少し入った左側のタッチライン沿いで、味方から短いパスを受けた岩渕がジェフユナイテッド市原・千葉レディースの2人のマーカーと対峙する。一見すると追い詰められているように映るが、実はその逆。タッチラインを背にした岩渕は、自身の背後をケアする必要がない。
 対面の2人の動きと呼吸を冷静沈着に見極め、細かいフェイントと軽やかなステップで一気にかわし、フリーとなった次の瞬間だった。おもむろに岩渕の右足が振り抜かれると、ボールは鋭い弧を描きながら40メートル以上も先にあるゴールマウスを目指していく。


 イメージ通りにマークを外したことで、やや力んで芯を外してしまったのか。弾道は相手ゴールキーパーの頭上を超えずにCKに逃れられてしまったが、狙い済ました一撃であることは明白だった。
 試合後の取材エリア。GパンとTシャツに着替えて姿を現した岩渕は、メディアから「あれは狙っていたの」と聞かれるとやや恐縮しながらうなずき、照れくさそうに続けた。
「相手のGKがちょっと前に出ていたので......ちょっと届かなかったですね」
 状況を的確に把握した上で相手をかわすために必要なテクニックを瞬時に弾き出し、同時にはるか彼方の相手GKの体勢をも見極めて不敵にシュートを放つ。1メートル55、52キロの小さな体に凝縮された天性のサッカーセンス。その氷山の一角が、なでしこジャパンを率いる佐々木則夫監督も視察に訪れていた雨上がりのぬかるんだピッチで存分に発揮された。


 昨シーズンのオフ。思い悩んだ末に、岩渕はフロントに背番号の変更を願い出ている。
 2008年の秋にニュージーランドで開催されたU‐17女子W杯。日本はイングランドにPK戦の末に敗れ、準々決勝で姿を消したが、弱冠15歳でエースに抜擢された岩渕は4試合で17ゴールを叩き出した日本の攻撃陣をけん引。テクニック、スピード、クイックネス、そして得点力で国際サッカー連盟(FIFA)関係者を魅了し、ベスト8敗退チームからは異例となる大会MVPに選出された。
 当時は下部組織の日テレ・メニーナからベレーザに昇格して1年目。世界が注目する逸材への期待の大きさは3年目となる2010年シーズンから託された背番号10に象徴されていたが、開幕前に17歳になったばかりの少女には逆にプレッシャーとなっていたのだろう。


 運営母体の東京ヴェルディフットボール株式会社の羽生英之社長が当時を振り返る。
「本人の希望で今年から13番に変えました。まだベレーザの中心選手ではないし、周りの選手からの信頼も得られていないので、背番号を変えてほしいと言ってきたので」
 ベレーザの10番と言えば、なでしこジャパンの大黒柱でもある澤穂希(現INAC神戸レオネッサ)の代名詞だった。まだ16歳だった入団4年目の1994年シーズンから背負い、日本とアメリカを行き来した間も、ベレーザに復帰した時は必ず10番が用意されてきた。
 しかし、昨年11月に澤がワシントン・フリーダムから復帰した際に20番が与えられたことも、岩渕のプレッシャーをより重くしていたのかもしれない。もちろん10番との決別ではなく、名実ともに背負うに相応しい選手になった時に満を持して。岩渕の不退転の決意が13番に込められている。


 晴れて都立小平西高校を卒業し、ベレーザとユニホームパートナー契約を結んでいる駒沢女子大学に進学した今シーズン。なでしこジャパンが初優勝した女子W杯で右足首骨挫傷を負って約2か月の戦線離脱を強いられ、来夏のロンドン五輪切符獲得をかけて9月に中国・重慶で開催されたアジア最終予選の代表からも漏れたが、その間にしっかりと心技体を鍛え直したのだろう。
 復帰戦となった9月25日の伊賀FCくの一戦でアシストをマークして試運転を済ませると、10月2日のASエルフェン狭山FC戦で2ゴール、同10日の福岡J・アンクラス戦でも1ゴールをゲット。迎えたジェフ戦でも鋭い嗅覚を駆使して前半14分、31分と連続ゴール。いずれもゴール前のこぼれダマを押し込んだ形だが、決して単なる偶然や幸運の産物ではない。


 0対0の均衡を破る1点目は左CKからDF須藤安紀子が右足で強烈なシュートを放ち、相手GKが必死に防いだそのこぼれダマを難なく右足で押し込んだ。
「ちょうど私のいるところにボールがきたので(笑)」
 岩渕本人は謙遜するが、CKの時には必ず相手GKに最も近い位置にポジションを取り、一瞬のスキも逃さないとばかりに神経を研ぎ澄ませている。GKにキャッチされたり、あるいはDFにクリアされても淡々と同じ仕事に徹したことが、結果的にチャンスを呼び込んだ。
 2点目はMF伊藤香菜子が強烈なミドルシュートを放った瞬間に、相手GKに防がれることを予測していたかのようにゴール前に詰め、ノーマークの状態で軽く右足を合わせた。
 

 よほど会心のゴールだったのだろう。2点目を振り返る岩渕の言葉も弾む。
「香菜さん(伊藤)がいい形でボールを持っていたので、ウラに(パスが)くるかな、という感じでポジションを取っていたんですけど。シュートを打ったのでこぼれダマを狙いました」
 このシーンに限らず、味方がミドルシュートを放った時には、必ず相手DF陣に先駆けてゴール前に詰めている背番号13の姿があった。突出した才能より何より、いつ訪れるか分からないチャンスを求めて無駄走りを繰り返せる愚直さが3試合で5ゴールという量産につながっている。最終ラインでゴールを見守っていたキャプテンのDF岩清水梓も、小さなエースへの賛辞を惜しまない。
「意識も変わりましたよね。自分がやらなきゃ、と。ホントに頼もしくなりました」


 ジェフ戦へ向けた前日練習が行われた14日は、岩清水の25回目の誕生日だった。大学の授業の関係で欠席せざるを得なかった岩渕は、頼れるキャプテンへ送った祝福メールの文面でゴールをプレゼントすることを約束。岩清水は「頼りにしているよ」と返信したという。
 まさに予告バースデー弾。岩清水には「頼りにしないでください」と送り返した岩渕だが、昨シーズン限りで澤やFW大野忍、DF近賀ゆかりらなでしこジャパンでも主力を担うベテランや中堅が抜け、メニーナから新しい選手が続々と昇格する中で新たな思いも芽生えつつある。
「私自身はずっと年下の選手だったんですけど、メンバーも大きく変わって、若い子たちが増えてきた中でちょっとですけど自覚や責任といったものが出てきたのかなと思っています。もちろん、私がやることは常に変わらない。練習からやるべきことをしっかりやって、試合に臨みたいです」


 連覇を目指して臨んだシーズンもいよいよ大詰めを迎える。アウェーでのアルビレックス新潟レディース、ホームでの岡山湯郷Belle戦をはさみ、11月6日には現時点で無敗のまま首位を走るINAC神戸レオネッサの本拠地ホームズスタジアム神戸に乗り込んでの大一番が待つ。
 破竹の6連勝。ベレーザの中心で輝きを増す岩渕は、自らに言い聞かせるように語気を強めた。
「チームの雰囲気はすごくいい。大事な試合が3つ続きますけど、2位にいる自分たちが結果を出していくことで、少しでもINACをびびらせることができればと思っています」
 背番号10の呪縛から解き放たれ、3年前に世界中へ衝撃を与えた潜在能力をよりパワーアップして開放しつつあるなでしこジャパンのエース候補へ。羽生社長はこう語りながら目を細めた。
「お客さんを呼べるし、何よりも持っているモノが違うからね。じっくりと育てますよ」


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2011年10月16日 03:21|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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