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読売ジャイアンツの「ドラフト破り」が黙認されていいのか  by 藤江直人

読売ジャイアンツの「ドラフト破り」が黙認されていいのか  by  藤江直人


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 さわやかな笑顔で12球団OKを表明する姿に、好感を抱いたのは筆者だけだろうか。
 27日に東京都内のホテルで行われるプロ野球のドラフト会議を前に、今年の目玉選手、いわゆる「ビッグ3」の一人である東洋大学の藤岡貴裕投手が初めて具体的な抱負を口にしたシーンだ。
 大学でのラスト登板となった25日の東都大学リーグの青山学院大学戦で9回を1失点完投。今シーズン自己最多の13奪三振の力投を演じ、大学通算27勝目をマークした左腕は、最大で7球団がトップ指名で競合されるとみられる一番人気に喜びを隠せなかった。
「どこの球団か楽しみですし、自分を指名してくれる球団が多いのは名誉なこと。1年間、指名していただいた球団で、しっかりと先発ローテーションを守れる投手になりたい」


 もちろん藤岡にも意中の球団はあるだろう。しかし、全日本野球連盟の規定でドラフト会議前に特定の球団を明らかにすることはできないし、何よりも指名の対象となる選手全員がくじのもとで平等であることが現行のドラフト会議の原則であり、野球界の共通のルールでもある。
 だからこそ、「ビッグ3」の一角である東海大学の菅野智之投手を巡る最近の報道には、違和感を通り越して不快感すら覚える。読売ジャイアンツの原辰徳監督の妹の詠美さんの息子、つまり甥となる菅野に対しては、ジャイアンツが昨年12月にわざわざ記者会見の場を設け、清武英利球団代表(現GM兼任)が今回のドラフト会議での1位指名を公言している。異例中の異例となる早期の態度表明は、いわば「血縁」を盾にとった「ドラフト破り」の序章だった。


 1メートル85、82キロの恵まれた体躯。首都大学リーグでの4年間で通算37勝を挙げ、リーグ新記録となる14完封をマーク。昨夏の世界大学野球選手権のキューバ戦では157キロをマークした本格派右腕は藤岡と同等の評価を得ても不思議ではないが、ドラフト直前の段階における状況は「ジャイアンツの一本釣り」なる情報が飛び交っているだけだ。
 各球団も当然のように菅野をマークしてきたはずだが、東海大が2シーズンぶり62回目の優勝を決めた16日に、野球部を率いる横井人輝監督は初めて菅野の進路に触れている。
「少し前に初めて菅野と話をした。あまりそういうことを言う子ではないが、本人の気持ちは揺るがなく、強く固まっていると感じた。意中の球団以外ならそういう選択肢もありうる」
 

 まるでオブラートにくるんだように「そういう」を繰り返したが、何を指すかは言うまでもない。1番目の「そういう」は「意中の球団」であり、2番目は「プロ野球以外」となる。
 意中の球団とはもちろん1位指名を表明しているジャイアンツとなる。他球団をけん制する動きに追い打ちをかけたのが、現在発売中の『週刊ポスト』に掲載されている菅野の祖父であり、原監督の父親である原貢氏のインタビュー記事だ。記事の最後で貢氏はこう語っている。
「そりゃね、巨人に入ってくれりゃ最高さ。ただ、よそにかかったとき、どうするかということも考えておかにゃいかん。1年間棒に振るか。それともアメリカへ勉強に行くか。話し合いはしていないが、おれの頭の中では決めているよ」


 監督として三池工業高と東海大相模高を率いて全国制覇を達成し、現在は東海大系列校野球部顧問を務める76歳の貢氏は、アマチュア野球界を牛耳るドンの一人とされている。
 現状では菅野本人の意思は確かめようもないが、ドラフト会議直前になって飛び出した貢氏の爆弾発言はジャイアンツ以外の球団に対する恫喝行為。ジャイアンツの1位指名表明がホップ、東海大の横井監督の発言がステップとするならば、貢氏が発した「おれの頭の中では決めているよ」は文字通りジャンプとなって事実上のジャイアンツ逆指名が成立する図式だ。
 実際にジャイアンツが菅野を一本釣りすれば、12球団の戦力均衡化を謳うドラフト会議が形骸化する。全日本野球連盟は貢氏に事情を聴取し、ペナルティーを科すべきではないか。


 果たして、他の11球団は何に遠慮しているのか。原監督の甥だからジャイアンツ入団を黙認するのか。原監督とて菅野が現役を引退するまで政権を続けていることはありえない。
 おそらくは貢氏の意思に反して指名を強行し、交渉権を獲得すれば、その瞬間からその球団のスカウトは東海大および系列校への出入りを禁じられ、今後数年間はドラフト会議で指名することができなくなるのだろう。こんな前時代的かつ強引な手法が許されるのだろうか。
 ダメを押すように、貢氏は『週刊ポスト』誌上でこう発言している。
「巨人でなかったら、アメリカへ行くのもいい。智之には、そういう可能性もあるということ。おれの教え子がアメリカにいるからね」


 1978年のドラフト会議前日の「空白の一日」を突いてジャイアンツが江川卓と強行契約した一件は、社会問題にまで発展した。自分たちに有利に働くように都合よくルールを解釈し、ドラフト会議を有名無実化させてきた手法は、近年ではメディアを巧妙に駆使する作戦へと変化している。
 昨年のドラフト会議でも、直前になって中央大学の澤村拓一の進路について一部スポーツ紙が「意中球団以外ならメジャー挑戦」と1面で報道。結果としてジャイアンツの一本釣りとなったが、1年の歳月が過ぎた今ではそうした「前科」は完全に風化してしまった。
 他の11球団も菅野を必要な戦力と見なすならば指名するべきだし、スポーツ紙をはじめとするメディアも「ジャイアンツ投手陣に黄金時代到来」などと報じている状況ではない。


 もちろん現行のドラフト制度は完全とはいえないし、裏金などの不正が横行した逆指名制度が廃止された現状においては、国内FA権を獲得するまでの期間を短縮する必要があるだろう。
 しかし、残念ながらルールはルールであり、全球団が順守しなければスポーツの原理原則が崩壊する。日本プロ野球界の盟主を自任してきたはずのジャイアンツは、なぜいつも傲慢にして不遜なのか。なぜ正々堂々と、胸を張れるような立ち居振る舞いができないのか。
 おりしも今シーズンのセ・リーグの観客動員数が東京ヤクルトスワローズ以外の5球団で減少し、特にジャイアンツは前年比で8・4パーセントも減ったと報じられたばかり。今年のドラフト会議に象徴される唯我独尊的な思考回路、他球団の情けないほどの及び腰、批判精神を忘れたメディアの報道姿勢が負のスパイラルとなって、プロ野球界全体を蝕んでいる。 


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2011年10月26日 16:33|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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