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ワントップ失格の屈辱を糧に。岡崎慎司に見る成長の跡  by 藤江直人

ワントップ失格の屈辱を糧に。岡崎慎司に見る成長の跡  by  藤江直人


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■サッカーW杯ブラジル大会・アジア3次予選第4戦
タジキスタン代表[勝ち点0] 0‐4(前半0‐1) 日本代表[勝ち点10]
[11月11日午後6時(日本時間)キックオフ@ドゥシャンベ・セントラル競技場]
※日本代表のアジア最終予選進出が決定


 本人が謙遜するほど簡単なゴールではなかったはずだ。後半ロスタイム。FW香川真司(ドルトムント)、FW前田遼一(ジュビロ磐田)との流れるようなパス交換から、FW清武弘嗣(セレッソ大阪)が前方右側にポジションを取っていたFW岡崎慎司(シュツットガルト)へラストパスを通す。
 視界に飛び込んでくるのは相手GKの姿だけ。マークするDFは誰もいなかったが、コースもほとんどがふさがれている。それでも、岡崎はためらうことなく右足を振り抜いた。
 果たして、強烈な弾道はGKの右側と右ポストとの間、距離にして1メートルもない狭い空間を突き抜けた。香川のクロスを叩き込んだ後半16分のヘディング弾に続く2点目。国際Aマッチ通算ゴールを木村和司(現横浜F・マリノス監督)と並ぶ歴代5位の26に伸ばした背番号9は「決めるだけのゴール。香川とキヨ(清武)のボールでほぼ決まっていた」とはにかんだ。


 敵地ドゥシャンベ・セントラル競技場のピッチは芝生は枯れ、そこかしこで土の部分がむき出しになっている。テレビ画面を通してもデコボコぶりが伝わってくる劣悪な環境に日本の選手たちが悪戦苦闘する中で、岡崎は水を得た魚のように躍動していた。
 2列目の右サイドから、常に相手の最終ラインのウラを突こうと集中力を研ぎ澄ませる。自陣の右サイドからMF長谷部誠(ボルフスブルク)が出したロングフィードに抜群のタイミングで飛び出し、ゴール前で巧みにボールをキープ。左サイドを駆け上がってきたFWハーフナー・マイク(ヴァンフォーレ甲府)へパスを通し、最初のビッグチャンスを演出したのは前半7分。底知れぬスタミナで守備にも奔走し、ホームの大声援を背に、0対8で大敗した10月11日の試合から一転、ゴールへの意欲を強めてきたタジキスタンに運動量とテクニックで対抗した。


 荒れ果てたたピッチは岡崎の「原点」と言っていいかもしれない。
 兄の影響を受けて、サッカーボールを追いかけ始めた小学生時代。兵庫・宝塚ジュニアFCを指導していた、今も恩師として慕う山村俊一コーチのメニューは独特だった。
「ボレーシュートが禁止だったんですよ。お前ら、カッコいいプレーをするのは10年早いって。だから、どんなに低いボールでもダイビングヘッド。コーチがクロスを上げて、それを僕たちがひたすら飛び込む。トラップやパスの練習をした記憶がない。いまでもダイビングヘッドが染み付いているというか。どんな高さのボールに対しても、ファーストチョイスは頭ですね」
 今ではすっかり有名となった岡崎の座右の銘「一生、ダイビングヘッド」は、滝川二高から清水エスパルスに入団した2005年に山村コーチから贈られた旅立ちの言葉だった。


 もっとも、当時も今も練習グラウンドに芝生が生えそろっているとは限らない。というより、基本的に土か砂利。そこへダイビングヘッドを繰り返せば、いったいどうなるか。
「地面ぎりぎりのボールをヘッドで押し込もうとして、地面と顔面でボールをはさんでしまったことも少なくなかった。鼻血なんかしょっちゅう(笑)。体中、それこそ擦り傷だらけで。でも、楽しくてしかたなかった。これがサッカーなんだ、とずっと思っていたので」
 岡崎は自らを「鈍感」と評してはばからない。屈強なDFたちが体を張るゴール前へ頭から飛び込むのは誰でも怖いが、「ちょっとでも躊躇したら、そっちの方が危ない」と平然と言う。
 恐怖を感じる前に、無意識のうちに体を反応させる。1メートル74、76キロと決して大柄ではない岡崎が試行錯誤の末に見つけた、FWとして生き残っていくための道だった。


 9月6日に敵地タシケントで行われたウズベキスタンとのアジア3次予選第2戦。1点を追う後半20分に岡崎が決めたゴールは、DF内田篤人が右サイドから上げたクロスに対してピッチすれすれの高さにもかかわらずダイビングヘッドでヒット。まさに真骨頂の一撃だった。
 もっとも、信じて疑わなかった「一生、ダイビングヘッド」が壁に直面した時期がある。昨夏のW杯南アフリカ大会直前。司令塔の中村俊輔(横浜F・マリノス)の不調に伴い、アジア予選から不動のメンバーで戦ってきた日本代表にメスを入れざるを得ない状況に追い込まれた当時の岡田武史監督は、中村だけでなく岡崎もレギュラーから外す決断を下す。
 代わりにワントップに指名されたのは本田圭佑(CSKAモスクワ)。トップ下を生業とする男が大舞台でFWの大役を託されたのだ。言うまでもなく岡崎の心中は複雑だった。


 昨年8月。『論スポ』の取材で、サッカーフリークとして有名な小説家の馳星周氏と対談した岡崎は、ベスト16進出を果たした南アフリカ大会を「ほとんど悔しさしか残らなかった。自分に対しての悔しさですね」と総括。当時の偽らざる心境を語っている。
  特に攻撃の選手たちの大半は出番が減っちゃったわけじゃないですか。俊輔はコンディションが悪かったかもしれないけど、岡崎君は初のW杯へ向けて闘志満々だったし、FWの主軸として選ばれてもいた。攻撃陣はそうした不満をどう乗り越えていったのかな。
岡崎 先発に出られるのは個の力で何とかできる選手。僕にはそうした能力がない、と言い聞かせました。自分がボールをもらってもプレーの選択肢がなかったし、いままでと異なるスタイルを出さなきゃいけない、と考えているうちに自分の中で迷いみたいなものが出てきて。


 点で合わせることしかできなかったからこそ、パスの出し手となる司令塔が精彩を欠けば、あるいは得点機をお膳立てされなければ、必然的に自分自身も前線で孤立する。
 ストロングポイントを磨きつつ、自らボールを持って仕掛けられるようにプレーの幅を広げていく。初体験のW杯を通して、岡崎はさらに成長するための道を見出していた。
 馳氏との対談では、岡崎はこうも語っている。
  4年後のブラジルW杯も狙うよね。28歳と円熟期で迎えるわけだしね。
岡崎 いい選手がどんどん出てくるし、次のW杯に出られる保証もない。その中で自分も下ばかりを見るのではなく、世界を見据えてやらなきゃいけない。自分にもまだ野望があるので。
 本田や長友と同じ1986年生まれの岡崎は、壮大な目標を設定していた。


 今年1月の移籍期限が閉まる直前にブンデスリーガのシュツットガルトに移ったのは、胸に秘められた野望実現への第一歩だった。馳氏との対談をもう少し再録する。
岡崎 (本田)圭佑やウッチー(内田篤人)のように自分も世界に出たいと思っているし、出るだけじゃなくてそこで活躍したいというのがあるので。
  いずれは(海外のリーグに)というのがあるんだ。
岡崎 このままJリーグでやっても、ブラジルW杯では結果を出せない。海外の厳しい環境の中でやらないと。W杯は別物。これからの4年間で世界を味わうかどうかで違ってくる。いつチャンスが訪れるかは分からないけど、僕は昔から世界に出ることを考えていました。いつかは世界ナンバーワンストライカーに、と無謀にも考えてきたんです。
 

 後半45分。左サイドに回っていた岡崎は果敢にドリブルでの突破を試み、相手GKにキャッチされてしまったものの、左から中央へ切れ込んで最後は右足でシュートを放っている。直後のゴールにしても、GKとポストの狭い隙間を正確無比に打ち抜いた。
 使われるだけのFWからの脱皮。アルベルト・ザッケローニ監督の方針もあり、献身的な運動量で守備でも貢献できる岡崎は2列目の右サイドを託されている。サイドで攻撃の起点となる一方で、逆サイドにボールがある時にはゴール前へ詰めることも求められる。新たなポジションで着実に結果を出しながらも、岡崎本人は自らを「生粋のストライカー」と呼んではばからない。
 代表に招集された時には必ず背負うようになった9番は、今も憧れの存在として追い続けるFW中山雅史(コンサドーレ札幌)の象徴であり、岡崎のプライドそのものでもある。
「背番号に関しては無頓着な方だけど、今まで付けてきた9番とは違う。受け継ぐものがある」


 ザッケローニ監督の初陣だった昨年10月8日のアルゼンチン戦で叩き出した決勝ゴールを皮切りに、ザッケローニ体制下では最多となる9ゴールを挙げている。
 国際Aマッチにおける通算ゴールも4位の高木琢也(現ロアッソ熊本監督)に1点差に迫り、3位の原博実(現日本サッカー協会強化担当技術委員長)の「37」をも射程にとらえた。その上にいるのは「55」の三浦知良(横浜FC)と「75」の釜本邦茂(元日本サッカー協会副会長)だけだ。
 滝川二高に入学した際は当時の黒田和生監督から「3年生になっても試合に出られないかもしれないけど」と念を押され、エスパルス入団当初は8人いたFWの8番目。当時の長谷川健太監督からサイドバックへのコンバートも打診されたことがあった。雑草よろしく真っすぐに、たくましく伸びてきた男が積み上げてきた数字は、今やまばゆい輝きを放っている。


 一時はワントップ失格の烙印を押された岡崎だが、腐ることなく精進を重ねてきた成果として、今では個の力で局面を打開できる存在になりつつある。李忠成(サンフレッチェ広島)、ハーフナー、前田の間に割り込めるだけの実力を備えている。何よりも3人を凌駕する数字が後押しする。
「チームはまだ完成していないので、もっといいチームにしていきたいと思う」
 続けて行われた試合でウズベキスタンが北朝鮮を下したため、2試合を残して日本のアジア3次予選突破が決まった。もっとも、岡崎にとっては15日に行われる北朝鮮戦(平壌)も、来年2月29日のウズベキスタン戦(豊田スタジアム)も消化試合とはなり得ない。 
 来年6月から始まるアジア最終予選、3年後のW杯ブラジル大会、何よりも「ナンバーワンのストライカーと言えばオカザキ」と国内外で認めさせるために。「完成していない」という岡崎の言葉には、さらに高く、険しいハードルを自らに課す覚悟も込められていたはずだ。
  

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2011年11月12日 19:52|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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