Home > 本日の論! > 「ネルシーニョ・マジック」に導かれたレイソルの初戴冠前夜  by 藤江直人

「ネルシーニョ・マジック」に導かれたレイソルの初戴冠前夜  by 藤江直人

「ネルシーニョ・マジック」に導かれたレイソルの初戴冠前夜  by  藤江直人


☆☆☆論スポ最新号の購入はこちらをクリックしてください!☆☆☆


■J1第33節
柏レイソル[勝ち点69] 1‐1(前半0‐0) セレッソ大阪[勝ち点40]
[11月26日午後2時4分キックオフ@日立柏サッカー場/観衆1万1107人]


 大胆なように思えて緻密。ギャンブルのように映るも、実は周到に用意されてきた秘策。知将と呼ばれて久しい柏レイソルのネルシーニョ監督の面目躍如の采配だった。
 1点を追う後半9分。2枚目の交代のカードが切られた。スタンバイしているのは、スピードに乗ったドリブル突破と鋭いクロスを武器とする攻撃的MFの水野晃樹。果たして誰と代えるのか。ベンチに下がるように命じられたのは、センターバックのパク・ドンヒョクだった。
 それまで右サイドバックを務めていた増嶋達也が本来のセンターバックに戻り、水野はそのまま右サイドバックの位置に入っていく。準備していたのか、あるいは思いつきなのか。試合後の公式会見で飛んだ質問に、指揮官は「もちろん準備していた」と胸を張って答えた。


 守備力に関しては、水野本人が「ゼロです」と苦笑いする。案の定、交代直後の11分には相手のFKへのポジショニングが疎かになる。左サイドをMFキム・ボギョンに突破され、フリーの状態でクロスを上げられても、ベンチのネルシーニョ監督は微動だにしなかった。
「もともとサイドもできる選手ですから。あのポジション(右サイドバック)ができるフィジカルコンディションも持っているし、ボールを持った時のテクニックも高いので」
 U‐22日本代表に招集された不動の右サイドバック酒井宏樹を欠いた一戦。代役の一番手は増嶋だったが、攻撃面で機能せずに苦境に陥る状態を見越していたのか。16日のヴァンフォーレ甲府との天皇杯。指揮官は後半29分から水野を右サイドバックとして試運転させていた。


 ハーフタイムの時点で、レイソルの初優勝が決まる確率はほとんどゼロになっていた。レイソルが勝ち、2位の名古屋グランパスが引き分け以下に終わった場合に備えて、会場の日立柏サッカー場にはJリーグの大東和美チェアマンが優勝盾とともにスタンバイしていた。
 しかし、同時間帯でモンテディオ山形と戦っていたグランパスが、前半だけで大量3点のリードを奪っているという一報が入る。さらに3位のガンバ大阪も、ベガルタ仙台を1点リードしたまま折り返している。グランパスとの勝ち点差は3、ガンバとは4。にわかに緊迫感が漂ってくる。
 万が一、セレッソに屈しようものならグランパスが得失点差で首位に立ち、ガンバにも勝ち点1差に肉迫される。迎えた後半3分。与えてはいけない先制点をセレッソに奪われてしまう。


 左からのコーナーキック。レフティーのDF尾亦弘友希がニアサイドに放った、ゴールから逃げていくボールを日本代表MF清武弘嗣が体勢を崩しながら頭でファーサイドに流す。飛び出したDF上本大海へのマークは皆無。サポーターの悲鳴とともにゴールネットが揺れた。
 このコーナーキックも増嶋が中途半端に攻め上がり、戻り切れなかった背後のスペースをカウンターで突かれて与えたものだった。最悪のシナリオが現実のものになりつつある。選手が浮き足立ってくる前に、ネルシーニョ監督は「攻めろ」というメッセージを明確に伝える必要があった。 
「今日は右サイド、特にあの時間帯から攻め入るスペースがあったが、マス(増嶋)を据えていた時はそこをなかなかうまく攻略できてなかったので、水野という選択をした」


 後半13分に右サイドを突破した水野が、粘り強くコーナーキックを獲得する。15分にMFレアンドロ・ドミンゲス、16分にはDF橋本和が積極果敢にミドルシュートを放つ。
 指揮官のメッセージがピッチ全体に伝播していく中で迎えた19分だった。左からのコーナーキック。相手DFのクリアをペナルティーアリアの外側で拾ったFW田中順也が、右のやや後方へボールを流す。飛び込んできた水野が、約25メートルの位置から右足を一閃する。
水野「自分としてはペナルティーエリアの外側、だいたい10メートルくらい後ろまでの位置からのミドルシュートは得意なので、どんどん打っていきたいと思っていた」
 相手GKの必死のセーブでコーナーキックとなった瞬間に、レイソルのスイッチが入った。


 右からのコーナーキックも、くしくも同じような展開となる。相手のクリアを拾った田中が、利き足とは逆の右足でハーフボレーを放つ。ボールは無情にも右のポストに弾かれ、こぼれダマを拾ったセレッソのキムと清武がカウンターを仕掛けようとした直後だった。
 嗅覚鋭くポジションをとっていた水野がボールをカットし、清武のタックルをかわして右のタッチライン際をドリブルで駆け上がる。2人目の尾亦のタックルの餌食となり、勢い余って転倒するも、痛がる素振りひとつ見せずに起き上がってマイボールのスローインの体勢に入る。
 得意のロングスローは増嶋の頭、田中の右足を経由してフリーのドミンゲスの前へ。左足から放たれたミドルシュートが、背後でサポーターが狂気乱舞しているゴールネットを揺らした。


 もっとも、ネルシーニョ監督は同点に浮かれることなく次なる一手を打つ。同点から1分後の後半21分にボランチの栗澤僚一に代わって投入された20歳のMF茨田陽生は、こんな指示を受けている。
「攻撃的な(水野)晃樹君を攻撃に参加させる、うまく晃樹君を使えみたいな感じで」
 残念ながら勝ち越しとなるゴールを奪えず、同点のまま試合終了を迎えたが、グランパスと勝ち点1差、ガンバとは2差で首位を死守した。12月3日の最終節。眼下の2チームの動向に関係なく、敵地埼玉スタジアムで浦和レッズに勝てばJリーグ史上初となる「J2から昇格1シーズン目で優勝」という偉業が達成される。価値ある勝ち点1奪取に指揮官の声も弾んだ。
「埼玉に行ってチャンピオンを決める、その第一歩となる大事な勝点1だったと思っている」


 相手に先制を許し、ズルズルと時間を浪費しかねない状況で、温存していた秘策で半ば強引に主導権を奪い返した。隠れたヒーローは、しかし、反省することしきりだった。
水野「自分では納得がいかない。攻撃的に行くためにサイドバックを代えてまで僕を入れたと思うので、クロスの精度、得点に絡むプレーで、あまりいいボールを配球できなかった。茨田君が入ってからは有利な状況で何度かボールをもらえていたし、テンポもよくなっただけに、もっと確実なボールを上げなければいけなかった。途中から出た選手は、やっぱり結果を残さないと次につながらない。シュートは入ったかなと思ったんですけど......相手のキーパーがよかったですね。でも、あれが決まっても同点だしね。オレ、持ってないのかな(笑)」


 ジェフユナイテッド千葉時代は当時のイビチャ・オシム監督の秘蔵っ子として脚光を浴びた。オシム氏が監督を務めた日本代表にも招集され、4つの代表キャップを記録した。
 順風満帆だった軌跡は、2008年1月に移籍したスコットランドの名門セルティックで出場機会をまったく得られない日々の中で暗転していく。2年半の間でピッチに立った回数はわずか12試合。伸び盛りの年代の選手にとっては致命的であり、自身の将来を危惧した水野はセルティックとの契約を1年残したまま、昨年6月に当時J2だったレイソルに移籍した。
 同7月25日。くしくも古巣ジェフを迎えた新天地での初陣で後半39分からピッチに立った水野は、右ひざの前十字じん帯を断裂。全治6か月の重症とともに昨シーズンを棒に振った。


 再起を期した今シーズンも、試合はおろかベンチにも入れない日々が続く。レイソルの快進撃が続いた夏場には、ジャージ姿のまま寂しげにスタンドで戦況を見つめていたこともあった。
水野「オレ、まだこのチームで点を取っていないんだよね。ここまで1年半、ホントにきつかった。最後に結果を残して、このチームにいたんだと言えるように頑張っていきたい」
 セレッソ戦は10試合目の出場。先発は一度もないが決して腐ることなく、不得手さを自任する守備でも清武、キムに狙い撃ちにされながら体を張って奮闘した。水野の姿には下馬評を覆してきた今シーズンのレイソルの飛躍の要因が凝縮されている。ネルシーニョ監督は言う。
「チーム全員の気持ちが原動力だと思っている。試合に出られる選手は決まっているが、気持ちをひとつにして、DF、MF、FWの全員が助け合って守備、攻撃を見せている」


 残り1試合。泣いても笑っても、あと90分間で今シーズンのすべてが決まる。
 セレッソ戦後のロッカールームには勝ち点3を逃した悲壮感は皆無だったという。自力で優勝を決められる状況に変わりなし。レッズ戦には右からの高速クロスで、FW北嶋秀朗をはじめとする攻撃陣のゴールをアシストしてきた酒井が帰ってくる。「オレ(の右サイドバックでの出番)はないね」と苦笑いした26歳の苦労人は、チーム全員の思いを笑顔で代弁する。
水野「まだ僕らが優位に立っているので、落ち込む必要もないし、変なプレッシャーを感じることもない。勝てば優勝できるので、いつも通りに勝ちを追い求めていきたい」
 Jリーグの歴史を塗り替える大一番へ。一夜明けた27日をチームのカレンダー通りにオフとしたレイソルは、何ら気負うことなく28日午前中の練習から最後の調整に入る。

 
☆☆☆論スポ最新号の購入はこちらをクリックしてください!☆☆☆

2011年11月27日 17:08|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

トラックバック(0)

この記事のトラックバックURL: http://sv62.wadax.ne.jp/~sports-times-jp/mt/mt-tb.cgi/589

コメント(0)

コメントを書く