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柏レイソル初優勝の原動力を探る(2)言霊による意識改革  by 藤江直人

柏レイソル初優勝の原動力を探る(2)言霊による意識改革  by  藤江直人


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■J1第34節
浦和レッズ[勝ち点36] 1‐3(前半0‐2) 柏レイソル[勝ち点72]
[12月3日午後3時35分キックオフ@埼玉スタジアム/観衆5万4441人]
※柏レイソルの初優勝およびJリーグ史上初のJ1昇格1年目での優勝が決定


 Jリーグ創成期で黄金時代を築いていたヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)をヘッドコーチ及び監督として支え、一時はW杯フランス大会出場を目指す日本代表監督にも内定。母国ブラジルでもコリンチャンスで全国選手権を制し、名門サンパウロFCでは南米大陸チャンピオンに輝くなど、輝かしいキャリアを誇るネルシーニョ監督にとって、シーズン途中の2009年7月から急きょ指揮を執ることになった柏レイソルは自信を喪失しかけた異質な集団に映ったのだろう。
「レイソルはJ2降格に怯えるようなチームになってはいけない」
 指揮官の口から幾度となく聴いた言葉だ。日本で還暦を迎えた名将は、同時に「レイソルの中に勝者のメンタリティーという文化を根付かせたい」と力を込めてもいた。


 2005年12月の入れ替え戦でヴァンフォーレ甲府に2戦2敗で屈し、11年目にして初めてJ2降格を味わったレイソルは、2009年のJ1戦線でも開幕から不振を極めていた。
 18試合を終えて3勝6分け9敗。得点21に対して失点39。目先の結果に怯え、J1に残留することへの呪縛を自分たちで強めた挙げ句、中途半端な心技体で次の試合を迎える。いわゆる負のスパイラルにメスを入れることから、ネルシーニョ監督によるチーム改革は始まった。
 真っ先に求めたのは、今も変わらない指揮官の哲学だ。「私は選手たちに常に勝つことを求める。もちろんすべての試合に勝つことは難しいが、勝つための準備をすることなら誰にでもできる」。チームスローガンとした『VITORIA(ヴィトーリア)』は、ポルトガル語で勝利を意味している。


 2009年は前半戦で取りこぼした勝ち点を挽回できず、2度目のJ2降格を喫した。しかしながら、ネルシーニョ監督が率いてからは4勝7分け5敗、得点20に対して失点18とチームは持ち直す。
 J2での戦いでも引き続きレイソルを率いることが決まっていた指揮官は、選手たちに「もう足元を固めてしっかりと戦おう」と捲土重来を訴えかけた。
 短期間で一気に高まった監督への求心力と信頼感は、他チームの草刈り場となることなく、ほとんどの選手が残留したまま2010年シーズンを迎えたことが如実に物語っている。明神智和や玉田圭司、矢野貴章、永田充らが去っていった2005年のオフとは対照的だった。
 J2新記録となる「開幕から20戦連続の無敗」と「年間2敗」を引っさげ、圧倒的な力でJ2優勝とJ1復帰を決めた昨シーズンの軌跡は、今シーズンへと続く序章だったわけだ。


 指揮官が求めた「勝つための準備」を整えていない者は、情け容赦なくメンバーからも外された。チームの功労者でもあるベテランFW北嶋秀朗は、昨年4月24日のロアッソ熊本戦から7月17日の横浜FC戦まで、実に3か月近くもベンチに入れない日々を余儀なくされている。
 メンタルの部分から徐々に進めていったチーム改革を、ネルシーニョ監督はこう振り返る。 
「日々のトレーニングの中で、それぞれのポジションに与えられた役割を全員がこなすこと。どの選手でも、そのポジションに入ったら役割はひとつ、というところから入っていった。そこから選手たちが私のやり方を理解して、自分の判断でプレーできるようになり、味方を助ける、複数のコンビネーションで役割を入れ替えるということがスムーズにできるようになった」


 必然的にチーム内に不文律が生まれる。練習の段階から100パーセントでプレーできない者は試合に出る資格がない。本番のピッチに立った者は出られない者の思いも背負って戦う、と。
 悲願のJ1初優勝が決まった直後の歓喜の輪。浦和レッズ戦で先発した21歳のFW工藤壮人は、サブのまま出番がなかった北嶋の胸に飛び込んできた。試合終了を告げるホイッスルが鳴り響く前から決壊していた北嶋の涙腺は、この瞬間、修復不能な状態になってしまった。
「僕が試合に出られなかった部分をアイツ自身も分かっていた上で、僕の悔しい気持ちを汲んで来てくれたのかなと。そういう部分もひっくるめて、アイツも成長しましたね(笑)。もちろん悔しさというものもありますけど、優勝に対する割合がはるかに濃い涙だったと思います」


 2000年のセカンドステージ最終節。勝てば初優勝というシチュエーションで鹿島アントラーズの老獪な試合運びの前に延長戦を含めた120分間を零封され、ドローとともに涙を飲んだ悔しさを知る唯一の存在となった33歳の北嶋は、昨シーズンのJ2戦線を戦いながら、J1昇格を通り越して、J1の上位で優勝争いに絡む光景を思い浮かべることができたという。
「去年勝ちまくったことで全員が勝ち方を知ってきたというか、勝つことに慣れた。それが一番大きいと思う。当然、今年に対しても自信はあった。去年の感覚をJ1仕様にすれば、という手応えですよね。いろいろなスピードや反応というものを、J1バージョンにすれば十分に戦えると」
 今年3月5日。清水エスパルスをホームに迎えた開幕戦で、手応えは確信に変わる。


 前半21分に新加入のジョルジ・ワグネルの鮮やかな直接フリーキックで先制すると、後半ににも2ゴールを追加。豊富な運動量で相手を終始圧倒しての完封発進から快進撃が始まった。キャプテンのMF大谷秀和は、特にエスパルス戦の白星がターニングポイントになったという。
「J2から昇格してきた中で、J1のチームに対してもしっかりと自分たちのサッカーが通用して、さらに勝てることが分かった意味でも、開幕戦の勝利は大きかった」
 J2から昇格して即優勝という目標を描けたのか。年目のFW田中順也は「開幕前の時点では少しも」と苦笑いするが、実際に首位を快走していた夏場には「この順位を絶対に明け渡したくない、という雰囲気が充満していた」と振り返る。北嶋の確信はチーム全体に伝播していった。

 
 ワグネルやDF増嶋達也らの移籍組が主力となり、試合出場数こそ少なかったものの、MF兵働昭弘や北朝鮮代表MF安英学らの新加入勢の存在もチーム内の競争を激化させた。
 2年前の夏に始まった改革は今もなお継続中であり、だからこそ北嶋は「ちょっとずつ積み重ねてきたことが結果につながった」と「ネルシーニョ・マジック」という言葉に首を傾げる。
 もっとも、その北嶋によれば、「どうせすぐに落ちてくるさ」という周囲の冷ややかな視線を覆すように首位を快走していた今年の夏を境に、指揮官が発する言葉が大きく変わったという。
「去年は『相手がライオンだと思って常に準備しよう。実際に試合が始まり、相手がウサギだったら、そのまま引っ掻いて倒せばいい』だったのが『勝つことで威厳が上がり、勝つことでリスペクトされる。だから勝ち続けなくてはいけない』と。僕の中で一番印象に残っている言葉ですね」


 勝ち続ける、イコール、優勝となる。大谷がネルシーニョ監督の真意を汲み取る。 
「J1に昇格してすぐに優勝することを口にするのを躊躇しているようでは、最後の最後で自分たちにいい結果はこないと思っていた。監督が口にするということはこのチームに自信を持っているからなので、僕たちもその覚悟を持って、優勝するのに相応しいチームになろうと思った」
 レイソルを指揮してちょうど2年。勝つための準備を常に整えるというファーストステップを終え、勝者のメンタリティーを身にまとう次の段階に進めるという確信に至ったのだろう。
 8月下旬こそ4位に転落したが、レイソルはそこから巻き返す力をすでに備えていた。胸突き八丁となる最後の7試合を6勝1分け。名古屋グランパス、ガンバ大阪との三つ巴決戦を鮮やかに制した。


 レッズとの最終節は、指揮官のふたつの哲学が前後半でそれぞれ体現されるような、いわゆる「言霊」となって選手たちのパーフォーマンスに反映された一戦でもあった。
 FW陣にけが人が続出したこともあり、レッズは本来はトップ下の山田直輝をFWの位置で起用する、ほとんどぶっつけ本番の布陣で臨んできた。当然のように、特に攻撃面ではサッカーの体をなさない。前半の45分間で放ったシュートはゼロ本。過去の輝かしい栄光では「ライオン」に映っても、J1残留争いの中でもがき、自信を失った今シーズンの姿は「ウサギ」に等しかった。
 だからこそ、レイソルはネルシーニョ監督の言葉通りに「引っ掻いて倒す」ことに専心した。前半に放ったシュートは実に17本。そのうち5本を占めたMFレアンドロ・ドミンゲスを軸にして、5万人を超えるホームの大声援を受けるレッズから情け容赦なく2ゴールを奪った。


 迎えたハーフタイム。レッズが威信をかけて反撃に転じてくることを見越した上で、選手たちに「引いて守りに入るな。我々のスタンダードのまま45分間いくぞ」と檄を飛ばしている。
 実際にレッズがMF柏木陽介のゴールで1点を返し、その後も攻勢に出る時間帯が続いたが、レイソルは耐えながらも虎視眈々と3点目を狙う。31分に20歳のMF茨田陽生がプロ初ゴールをゲットすれば、3分を数えたロスタイムにはFW林陵平が貪欲にシュートを放つ。ボールがラインを割り、相手のゴールキックになる直前に試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
 プレッシャーも敵地も何も関係ない。2年前から志向してきたスタイルを貫き、圧巻の勝利をもぎ取った姿は確かに「威厳」を漂わせ、誰からも「リスペクト」される強さがあった。


 そして、ネルシーニョ監督が言う「スタンダード」はレイソルの未来像と一致している。
「具体的には守備、ポジション、役割、攻撃のバリエーション、パスミスがないこと。それらのすべてがスタンダードであり、ひとつでも欠ければレイソルのサッカーは機能しない。勝った後に言うのは簡単に聞こえるかもしれないが、ここまでくるのは難しかった。スタッフの努力、選手の努力があり、一人も離脱することなくいいシーズンを送れた。優勝は我々の目的のひとつだったが、一回で終わらないように、常に結果を残していくための努力をしていきたい」
 レイソルの歴史を知る北嶋は、「こんなにかかるとは思わなかったけど、11年前に逃したものと今回で得たものとでは、やっぱり今回の方が大きいですね」と感無量の表情を浮かべる。  

 
 ならば、得たものとは何なのか。表彰式でキャプテンの大谷が掲げたJリーグ杯を間近で見た北嶋は、新たな思いが顔をのぞかせてくるのを感じずにはいられなかったいう。
「優勝とは魂に響くものなんだ、とあらためて感じた。僕の体の中から出てくるこの感覚は、やっぱり今までなかったもの。これが優勝の感情、これが優勝の景色なんだと感じているし、優勝チームがその後に強くなるのは、この味をしめたからなんだと。僕自身、すでにこの景色をまた見たいと思っている。病みつきになる思いは十分すぎるほど理解できました」
 怒涛の6連勝で最後まで勝ち点1差で食い下がった、昨シーズン覇者の名古屋グランパス然り。タイトルはチームを変える。だからこそ、レイソルもさらに変わる。北嶋はそう信じている。


 J1制覇とともに、今月8日から始まるクラブW杯に開催国代表として初出場することも決まった。21日にはグランパスとの天皇杯4回戦も控えている。休む間もなく続く戦いを歓迎するように、北嶋は「クラブで世界一になるのが夢。それが目の前にある」と武者震いしながらこう続ける。
「11年前は優勝できなかったから、この味を知らなかったから、あれ以上は強くなることはかなわなかった。ようやく今、新しい一歩も踏み出すことができた。こうやってチームは強くなっていくんだと考えると、嬉しくてたまらない。臆することなく(クラブW杯に)臨みたい」
 優勝を決めた直後の選手たちは、「今日だけは浸ります」と異口同音に喜びを表した。4日のオフをはさんで、5日午前にはクラブW杯へ向けて始動することが決まっていたからだ。世界のヒノキ舞台でも、もちろん勝つ準備を入念に整えて。新王者は6日に次なる戦いの地、愛知県豊田市に入る。


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2011年12月 6日 01:45|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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