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持っているFW杉本健勇のポテンシャルと憎めない素顔(2)  by 藤江直人


■サッカー国際親善試合
U‐23日本代表 1‐0(前半0‐0) U‐23ベラルーシ代表
[7月18日午後10時15分(日本時間)キックオフ@シティグラウンドスタジアム]


(1)から続く


 東京ヴェルディでの濃厚な3か月半で、杉本健勇のポテンシャルがいかに解き放たれていったか。「素直でいいヤツ」と目を細める川勝良一監督のコメントを聞けば、それはおのずと分かる。
「今日の試合や壮行試合で決めたるのは、決して偶然ではないと思う。そこにいた、その場所を選んだという必然性をもっと強く意識してくれれば。あの大きさで速く動くし、足元も上手い。見ている人の期待心がものすごく高くなるし、それに近づける準備をしてほしい。ウチにきてから4、5キロやせているし、よくトレーニングしたことで動けるようになったのであれば、それを維持してほしい。大きな体でも隠れて最後に出るとか、大きな体をフルに使っているのにプレーの質を落とさないとか、両方の面ができる選手。国際舞台で勝負して結果を出して、もっと大きな選手になってほしい」


 川勝監督の言う「大きな体でも隠れて最後に出る」とは、DF徳永悠平(FC東京)が放ったミドルシュートのこぼれダマに誰よりも早く反応し、ゴールネットを揺らした11日のロンドン五輪壮行試合の一発であり、巧みなポジショニングから決めたヴェルディでのラストゴールを指すのだろう。
 同じく「あの大きさで速く動く」は、U‐23ベラルーシ代表戦の後半6分のプレーに凝縮されている。MF齊藤学(横浜F・マリノス)からのヒールパスを受けた杉本はドリブルで一直線にゴールに迫り、その過程で相手のスライディングタックルを軽やかにかわしている。
 ペナルティーエリアの外から放った右足によるシュートは残念ながら当たり損ねとなって相手GKにキャッチされたが、50メートルで6秒を切るスピードを存分に見せつけた。


 そして、「足元の上手さ」はU‐23ベラルーシ代表戦の決勝ゴールが如実に物語っている。
 敵陣の左サイドでMF米本拓司(FC東京)、続いてMF東慶悟(大宮アルディージャ)が猛然とプレスを仕掛ける。3人目の「刺客」となったMF村松大輔(清水エスパルス)の足に当たったボールは微妙にコースを変えて、ピッチの中央にいた杉本の足元にピタッと収まる。
 ドリブルでボールを前に運んだ背番号9は、ペナルティーエリアに侵入する直前で左サイドをフォローしてきた東にパス。同時にスピードを緩め、自らの眼前にスペースを作り出す。
 東に対して「パスをくれ」というゼスチャーを示した時点で、脳裏にはゴールへの絵が描かれていたのだろう。トラップした瞬間に前を向き、右足で冷静沈着にゴール右隅の空間を打ち抜いた。


 中学入学と同時にセレッソ大阪の育成組織に入団した。1メートル87の長身を見込まれ、かつ層が薄い日本のセンターバック事情を見越して、セレッソ大阪U‐18時代にはセンターバックに一時的に転向。2009年の日本クラブユース選手権では優勝の原動力となり、大会MVPを獲得している。
 高校を卒業する昨年春をもってトップチームに昇格させる青写真は、W杯南アフリカ大会期間中の2010年7月1日に大幅に前倒しされている。当時の藤田信良社長は理由をこう語っていた。
「ユースの試合だと簡単にゴールを決めてしまうし、練習中の様子を見てもどこか退屈そうにしている。ユースにあと半年も置くのはむしろマイナスになる、と思いましてね。アイツはごく近い将来のセレッソのエースであり、ゆくゆくは日本代表のエースにもなるんですから」


 いわゆる「飛び級」でトップチームに加わらせ、ポジション争いもままならない状況に放り込むことで、杉本の心に巣食いかけていたマンネリ感を一掃する狙いがあったのだろう。
 ガンバ大阪が育成組織の「最高傑作」と謳われたMF宇佐美貴史(現ホッフェンハイム)をジュニアユースからユース、ユースからトップチームと「飛び級」で昇格させ、常に環境を変化させながら育ててきたのと同じ手法。セレッソが杉本にかける期待の大きさが伝わってくる。
 そして、同じ1992年生まれの宇佐美に対して、「一歩遅れているのは事実。気にならないと言えば嘘になる。追いつきたいというより、追い越さなあかん」とライバル心を抱いていた杉本は、トップチーム昇格と同時にFW一本で勝負したい希望を当時のレヴィー・クルピ監督に伝えている。


 もっとも、刺激を注入することは必要だが、育成年代の選手の成長を何よりも促すのは真剣勝負における経験の積み重ねとなる。J2の愛媛FCに期限付き移籍し、14ゴールをマークした齊藤がマリノスでブレークし、U‐23日本代表でも確固たるポジションを築いているのが典型的な例だ。
 ならば、ヴェルディでの3か月半で18試合を経験した杉本はどうだったのか。
杉本「少しは成長したなというのは自分でも感じているし、だからこそオリンピック代表にも選ばれたと思っている。具体的に言うと、運動量や相手の最終ラインの裏に抜け出す動きの質。セレッソの時はホントに運動量も少なかったので。それでも、まだまだゴールという数字が足りないというか少ないので。ロンドンオリンピックでは数字にこだわっていきたいというのはあります」


 杉本がU‐19日本代表でプレーしていた2010年当時の監督で、現在は日本サッカー協会のユースダイレクターを務める布啓一郎氏は「杉本くらいのサイズは世界では当たり前」と大型FWという「枕詞」を安易に添える日本の風潮に警鐘を鳴らした上でこんな助言を送っていた。
「海外ではあのサイズの選手が複数の仕事をこなす。ポストプレーやスピードはパーツでしかないので、それらをいかに組み合わせていけるか。攻守に関わり続けないと世界では戦えない」
 ヴェルディでの日々で一番の武器と自負する高さだけでなく、ボールを引き出すための質、相手DFとの駆け引き、前線からの守備などを泥臭く吸収し、さらに伸びしろがあると見込まれたからこそ、実績のあるFW大迫勇也(鹿島アントラーズ)に代わって抜擢されたのだろう。


 もちろん、杉本自身も自覚しているように、FWを評価する絶対的な指標であるゴールの数が足りないことは否めない。ヴェルディでは18試合で5ゴール。ツートップのコンビを組んだ阿部拓馬の14ゴールに遠く及ばなかったからこそ、より貪欲に、という思いは強くなる。
 U‐23ベラルーシ代表戦後には、日本サッカー協会を通じてこうコメントしている。
杉本「結果を残そうと思っていたけど、1点しか決められなかったのは反省。もっと決定力を上げていかないといけない。先発でいきたい気持ちがあるので、アピールしていきたい」
 ワントップを争う大津祐樹(ボルシアMG)は、本来は左MFが主戦場のサイドアタッカーだ。21日のU‐23メキシコ代表との親善試合が、関塚隆監督に評価を逆転させる最後の場となる。


 U‐23ベラルーシ代表戦から一夜明けた19日、セレッソは杉本の背番号を発表した。シーズン開幕時に背負っていた16番ではなく、期限付き移籍していたヴェルディで背負っていた41番をあえて選択した点に、「古巣」への感謝の思いを忘れない杉本の熱い浪花節が見え隠れする。
 ヴェルディでの最後の試合を終えた19歳は、声をやや震わせながらこう話していた。
杉本「ヴェルディへの移籍を認めてくれたセレッソにはホントに感謝していますし、もちろん僕にオファーを出してくれたヴェルディにもすごく感謝しています」
 余談になるが、よみうりランドの近くにようやく借りたマンションは退去の手続きなどが間に合わず、杉本がイギリスに滞在している間に両親が上京して荷物を運び出すそうだ。


 2年前の9月19日。セレッソ大阪と関西学生選抜Bが対戦した関西ステップアップリーグの会場である大阪・堺ナショナルトレーニングセンターに、U‐21(当時)日本代表監督への就任が内定していた関塚氏が突然姿を現し、炎天下の試合を食い入るように視察していた。
 関西の4つのJ1クラブと大学生選抜の計6チームで発足させた強化・育成の場に、トップチームに昇格して間もない杉本が出場していたのは、今振り返れば決して偶然ではなかったことになる。
杉本「一番上を目指したいし、まずは予選を突破しないと。初戦のスペインに集中したい」 
 11日からの8日間で3試合連続ゴール。荒削りゆえに未知なる爆発力も秘めている杉本は、五輪という大舞台を戦う上で欠かせないラッキーボーイ的な雰囲気をもすでに漂わせている。

2012年7月20日 21:03|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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